
イギリス・エセックス大学の社会経済研究所(ISER)で行われた大規模な双子研究によって、子育ての「効き目」に目立った貧富の差が見当たらないことが示されました。
裕福な家庭の子どもは知能テストのスコアで、IQに置き換えれば3ポイントほど高い、という差は今回の研究でも確認されましたが、同じ関わりが恵まれた家でだけ余計に実を結ぶ、ということもなかったのです。
むしろ同じ質で子どもに向き合い、同じだけ一緒に過ごしたなら、家の貧富の差なく子供たちの知能は高くなる傾向がみえてきたのです。
研究内容の詳細は『The Journal of Genetic Psychology』にて発表されました。
目次
- 子育ての中身に貧富の差はなかった
- 子育ての「効き目」に目立った貧富の差はなかった
- 収入が低くても、親の関りが濃いと子供の知能は高くなっていた
子育ての中身に貧富の差はなかった

「恵まれている家庭の子供は優秀だ」という話はよく聞くと思います。
これは学術的にも確かめられており、豊かな家庭で育った子供は、そうでない子供に対して知能の面で統計的に有意なアドバンテージを持つことが複数の研究によって確認されています。
しかし、豊かであることと子供の知能の結びつきは、即イコールで結びつくほど人類の脳は課金制とは言えないはずです。
そこで今回、エセックス大学などに所属するヴェラ氏は、子どもの知能の差が、親のどんな要素と結びついているのかを詳しく分析することにしました。
研究にあたってはまず、「両親の最高学歴が大学などへの進学資格に届いていない」か「世帯の手取り収入がドイツの下位30%未満」のどちらかに当てはまる家庭を、「社会経済的に恵まれない家庭」と分類しました。平たく言えば、学歴か収入のどちらかで恵まれない側にある家庭です。
その上で、ドイツで続いている大規模な双子調査のデータを分析しました。
このデータには調査時点で10歳から12歳の同性の双子1,040人ぶん(一卵性392人、二卵性648人)について、子どもの知能、親の接し方、親子で一緒に過ごす頻度、家庭の経済状況が記録されています。
ここで言う子供の「知能」は、初めて出会った問題を前にして、どう頭を回転させるかを見るタイプの能力で専門的には流動性知能と呼ばれます。
また今回ヴェラ氏は、子どもの知能に関わる親の側の要素を、三つに分けました。
・親自身の頭の良さや性格——親の知能や性格そのもの
・子育てスタイル——褒めるか、怒鳴るか、子どもの交友関係を把握しているか
・一緒に過ごす時間——親子で何かを一緒にする頻度
この三つが、それぞれどれだけ子どもの知能と結びついているのか。ひとつの数式に乗せて、寄与の大きさを推定しました。
結果、ずば抜けて大きかったのは、親自身の頭の良さや性格で、二番手が子育てスタイル、三番手が一緒に過ごす時間となりました。
子どもの知能に関しては、親が何をするかよりも、親がどういう人であるかのほうが、ずっと大きく響いていたわけです。
また論文の結論部では、恵まれない家庭の親は流動性知能や情緒の安定度が低い傾向にあり、それが子どもにも引き継がれうると述べられています。
知能と最も強く関連する要素で、恵まれた側が有利になっている。残酷な話です。
こうなると、知能に2番目に効いた「子育てスタイル」も、どうせ恵まれた側が「良質」だと思い込みたくなります。
裕福な家庭には、情緒的な温かさがあり、見守りが行き届き、腹が立ったときに怒鳴ることもなく、罰を使って言うことを聞かせようとすることも少なく、一貫性も保たれているのでは、と。
教材を買っているか、習い事に通わせているか、家に本が何冊あるかという要素ではなく、子育てのベースとなるものの違いです。
しかしヴェラ氏が分析を行ったところ、驚くべきことが分かりました。
子育てスタイルの点数を分布図に重ねてみると、豊かな側と、そうでない側の分布は、ほとんど重なっていたのです。
豊かな家だけ温かい子育てが行われていたり、厳しい家だけ怒鳴り声が頻繁に響いているというわけではなかったのです。
家庭が裕福かどうかだけで、子育てスタイルの中身が大きく分かれるわけではなかったと言えるでしょう。
子育ての「効き目」に目立った貧富の差はなかった

では、同じ質の子育てをしたとき、返ってくるものは家庭によって違うのでしょうか。裕福な家には本があり、静かな勉強部屋があります。同じ接し方でも、そちらのほうが実りが大きいのではないか——そう考えるのは自然なことです。
ヴェラ氏はこの点も確かめました。
三つの要素(親自身の頭の良さや性格・子育てスタイル・一緒に過ごす時間)が、子どもの知能とどれほど効率よく結びつくのか。その効率を、恵まれている場合と厳しい場合で比べたのです。
結果、はっきりした差は見つかりませんでした。
同じだけ関われば、同じだけ返ってくる。少なくとも今回の分析では、家庭の豊かさによって“効き目”が変わるという証拠は見つからなかったのです。(※統計的には0.097標準偏差がみられましたが、極めて小さいと言えます)
さらに知能に寄与する「一緒に過ごす時間」についても、興味深い結果が得られました。
ただこの研究で「一緒に過ごす時間」として記録されたのは、時計で測った滞在時間ではありません。次の五つを、どのくらいの頻度でしているかという記録です。
・歌う、楽器を演奏する
・本を読む、本について話す
・スポーツをする
・散歩や日帰りの外出をする
・劇場や美術館に行く
どれも高所得層でなければ無理というものではないのが重要です。
結果、この一緒に過ごす頻度は、低所得そのものよりも、親の学歴とのほうがはっきり結びついていました。
学歴が収入に関連しているのは知られていますが、現実には低学歴でも高収入な家や、高学歴でも低収入な家があります。
研究では所得と学歴を分けても分析しましたが、一緒に過ごす頻度とより明確に関連していたのは、親の学歴のほうでした。
つまり、世帯収入だけで親子の過ごし方が決まるわけではなく、親子で一緒に活動する頻度は、子どもの知能の高さと結びついていたのです。
「質の高い子育て」という言葉には、どこか費用のかさむものだという思い込みがあるでしょう。
しかし子育てスタイルや一緒に過ごす時間といった知能に関連する要素は、単なる収入によって支配されてしまうものではありませんでした。

