コメがどんどん安くなっている。8月に入り、5キロ2600円台のコシヒカリがスーパーに並ぶなど一年前と比べたらほぼ半値まで落ち込んでいる。消費者にとってはありがたい反面、生産者のコメ農家にとっては死活問題に他ならない。全国各地でコメの買い占めと品薄から価格が暴騰した「令和の米騒動」から一転、コメ余りから暴落に喘ぐ生産現場。猫の目の様に変わる農業政策に翻弄され続ける食の最前線の苦境を伝える。
当初は1年以内とされていた買い戻しもまだ…
コメの在庫水準の指標である「民間在庫量」の適正水準は180万トン〜200万トンとされる。しかし、2023年は猛暑による品質低下や精米歩留まりの悪化、需要増なども重なり、2024年6月の民間在庫量は153万トンにまで落ち込んだ。さらに同8月8日発生の日向灘地震を受けて南海トラフ地震の可能性が指摘され、消費者がコメの買いだめに走ったことで需給バランスが崩れ、米価が暴騰した。
対策に追われた政府は昨年3月から4月にかけて、備蓄米31万トンを競争入札で集荷業者に放出したが事態は好転せず、同5月、新たに就任した小泉進次郎農林水産大臣(当時)の肝入りで随意契約で小売業者に販売した。
石破茂首相(同)が「コメは(5キロ)3000円台でないと」と価格調整を表明したこともあり、。競争入札で放出された備蓄米は、卸などを経てブレンド米として5キロ3500円程度で販売されるケースがあった。その後、小泉氏のもとで始まった随意契約では流通経路を短縮し、5キロ2000円前後の備蓄米が店頭に並んだ。
しかし、コシヒカリなどのブランド米は5キロ5000円を超えるなど高止まりが続き、全国約1000店舗のスーパーの米価の平均価格は2026年の年初に5キロ4416円のピークに達した。以降は急激な下落傾向に転じて平均価格は約3300円まで下がり、民間在庫量は6月末に過去最大の243万トンまで積み上がり、冒頭のようにブランド米が2000円台で特売されるケースも珍しくなくなった。結局備蓄米は主食用として計59万トンが放出され、当初は1年以内とされていた買い戻しもまだ行われていない。
買い戻し期限は2025年5月に『原則1年以内』から『原則5年以内』へ変更された。政府は買い戻し自体を取りやめたわけではなく、8年産米の作柄や需給を踏まえて時期や数量を判断するとしている。
「コメ余りの状況は2、3年は続くと思います」
この2年間のコメ環境の激動について、栃木県さくら市で22ヘクタールの大規模農園「岡田農園」を営む岡田伸幸さんに聞いてみた。
「現状はコメ余りです。今年も昨年に続いて豊作になる見込みですから、令和の米騒動のときとは真逆の状態になっています。その理由は石破政権の時に増産方針になったからですよ。農家はみなさん真面目だから一斉にそれに従った。増産の効果が出るのは普通に考えれば1年以上経ってからなので、それが今出ているわけです。
ただ、それが単なる失政だったかというと、難しい判断だったとは思います。コメの不作、インバウンド需要、南海トラフ地震の臨時情報を受けてのパニック買いなど様々な要因が絡みあってコメ騒動につながっていました。その中で増産に転換したのは間違いとは思いませんが、目先のことだけを見た政策だという印象でした。
結果、豊作となり、備蓄米でコメ余りが決定的になりました。備蓄米は江藤さん時代に放出した30万トンで足りていたのに、大臣が小泉さんに代わって価格調整のためにジャブジャブに放出した結果、市場に余り過ぎたんです。その備蓄米がはけていってようやく令和6(2024)年産、令和7(2025)年産に手をつけ始めたところですから。
仲卸業者の倉庫にも高騰していた時に仕入れたコメがまだたくさんあるんですよ。今年予想通り豊作になれば余剰は拡大するでしょうし、私の見立てではコメ余りの状況は2、3年は続くと思います」
消費者対策に必死だった政府は、生産者を守るためには何かしているのか。高市早苗内閣で就任した鈴木憲和農水相は増産方針から一転、価格暴落を防ぐための「需要に応じた生産」を推進している。
「鈴木大臣の方針はその通りで正しいと思います。でも小泉前大臣は価格を下げるためにと明言して備蓄米を投じた。それって市場介入ですよね。それを現政権ではやらないと言っている。我々農家からするとコメの価格を下げるためには全力投球するけど、価格を上げるためには何もしないと言っているのと同じことです。
高市首相はコメ農家に興味がないのでしょう。備蓄米を買い戻す契約だったのに買い戻さないじゃないですか。買い戻しがないとわかったから暴落しているんですよ。高市首相はよく言えば消費者目線なんでしょうけど、ここまで翻弄されて黙っていられない。買い戻しの約束を反故にすることが許されてたまるかって話ですよ」

