
マルタ大学(UM)で行われた研究によって、出会い系アプリのプロフィール詐称を「許せるかどうか」に最も一貫して結びつく性格が、サイコパス的傾向であることが明らかになりました。
大半の参加者が性別や容姿の偽装に9割超の強い拒絶を示す中、共感の薄さや衝動性を特徴とするこの傾向が強い人ほど、一部の嘘については厳しく断罪しない側に立ちやすかったのです。
研究者は「オンラインデートにおける欺瞞への許容度と最も一貫して関連する個人差として、精神病質(サイコパス的傾向)が浮上した」と結論づけています。
では”絶対に許されない嘘”と”意外と許されてしまう嘘”の境界線は、いったいどこにあるのでしょうか?
研究内容の詳細は2026年7月4日に『Behaviour & Information Technology』にて発表されました。
目次
- 「許せる嘘」と「許せない嘘」の境界線
- サイコパス傾向は嘘への寛容さと結びついていた
- 男女で微妙に異なる「嘘の見え方」
「許せる嘘」と「許せない嘘」の境界線

プロフィール写真に一番よく撮れた奇跡の1枚を選ぶ。
年齢を1〜2歳だけ若く、身長をちょっとだけ盛る——出会い系アプリのプロフィールには、多かれ少なかれ「演出」が入り込むことがあります。
自分のプロフィールであれ相手のプロフィールであれ、この空気感は、利用経験者ならある程度想像しやすいものかもしれません。
では、どこからが「許せない嘘」になるのか。
ボゴリュボワ氏は、出会い系アプリの現在または過去の利用者796人に対し、年齢、性別、容姿、体重、経済力(社会経済的地位)、交際状況という6種類の嘘を描いた架空のシナリオを読ませ、それぞれの許容度を7段階(1が「全く容認できない」、7が「全く容認できる」)で評価してもらいました。
各シナリオには男性版と女性版が用意され、参加者はどちらかをランダムに読んでいます。
結果は鮮明でした。
最も強い拒絶を受けたのは性別の偽装で、93.1%が7段階の1〜2、つまり「許せない」側と回答しています。
これは退屈しのぎで異性になりすまし、相手を信じ込ませて楽しんだうえ、時には待ち合わせ場所まで相手の顔を見に行くというシナリオでした。
次いで、ネット上の他人の写真を自分として使う容姿の偽装が90.6%、12歳のサバ読みが81.6%、既婚なのに「独身」と偽る交際状況の偽装が78.5%、無職なのに弁護士を名乗る経済力の偽装が71%と続きます。
ところが体重の嘘だけは、拒絶率が37.7%に急落します。
許せる度合いを示す7段階の平均スコアで見ると落差はもっと明白で、他の5つが1.39から2.08の許せない側の範囲に収まる中、体重だけが3.03と唯一、許せる側に飛び出していました。
このシナリオの中身は「実際より約18kg少なく申告し、全身写真の投稿を避ける」というもので、単なる奇跡の1枚よりは踏み込んだ偽装です。
それでも強く拒否しなかった人は472人と、2位の経済力(223人)の倍以上に達しました。
18kgは、会えば一目でわかる差です。
それでも大目に見られたのはなぜか。
ボゴリュボワ氏の分析を追うと、参加者が重く見ていたのは嘘の大きさではなく、その嘘が「別の誰か」を作り出しているかどうかだったことが見えてきます。
他人の写真を使えば、待ち合わせ場所に現れるのは文字通り別人です。
性別を偽れば、そもそも探していた相手ではありません。
既婚を隠せば、築けるはずの関係そのものが最初から成立していません。
ところが体重の場合、目の前に現れるのはやはり同じ人物です。
ボゴリュボワ氏は、他人の写真を丸ごと使うような正体そのものを偽る嘘と比べれば、体重の差は程度の問題に見えた可能性があると指摘しています。
実際、オンラインデートの嘘は身元の根本的な偽装より、軽い脚色のほうが主流だと先行研究は示しており、参加者の線引きはその実態とよく重なっていました。
嘘にも「越えてはいけない線」があり、多くの人はほぼ同じ位置にその線を引いていた。
嘘の種類によって寛容さがここまで変わるとすれば、次に浮かぶ疑問があります。
嘘を評価する側の性格は、この線引きにどう影響するのか、という問題です。
サイコパス傾向は嘘への寛容さと結びついていた

この研究がユニークなのは、ここから調べる対象が入れ替わる点です。
嘘の中身ではなく、それを読んでいる人間のほうに焦点が移ります。
調査では、6種類の嘘の許容度に加え、参加者の性格傾向も測定されていました。
対象となったのは、心理学で「暗い四性格」(ダークテトラッド)と呼ばれる4つの特徴です。
自分を特別視する自己愛、他人を計算ずくで操る傾向、他者の苦痛を楽しむ傾向、そしてサイコパス的傾向の4つで、いずれも、自分の利益のために相手を動かす行動と結びつきやすい性格として研究されてきました。
このうちサイコパス的傾向とは、衝動性が高く、スリルを求め、他者への共感が薄いという特性を指します。
そして4つの中で、嘘への寛容さと最も一貫して結びついたのが、このサイコパス的傾向でした。
サイコパス的傾向は7点から35点の範囲で測られ、796人の平均は14.66点でした。
この点数が平均より4点ほど高い人は、統計モデル上では、性別のなりすましを「許せない」と断じない側に回る比率が約1.4倍、既婚隠しでも約1.25倍になる計算です。
なぜ4つのうちこの1つだけが浮かび上がったのか。
鍵は、有意な関連が出た2つの嘘が、どちらも「騙される側の痛み」を軽く見ないと成立しないものだった点にあります。
性別のなりすましは、恋愛のためではなく退屈しのぎで相手を信じ込ませて楽しむ行為でした。
既婚隠しは、相手の時間と将来を賭けさせる嘘です。
実際、デートアプリで相手をからかう行動や不貞行為とサイコパス的傾向の結びつきは、先行研究でも繰り返し示されてきました。
さらに踏み込んだ分析では、そもそも嘘を強く拒絶しなかった参加者の中でも、この傾向が強い人ほど、年齢、容姿、交際状況の嘘を相対的に受け入れやすいと評価していたことが分かっています。
たとえば他人の写真を使う容姿の偽装では、サイコパス的傾向が4点ほど高いと、許容度は1割ほど高くなる計算です。
年齢と交際状況の嘘でも、同じ向きの関連が確認されています。
つまりサイコパス的傾向は、嘘を切り捨てない側に立つかどうかだけでなく、その先の甘さの度合いにも関わっていたことになります。
線をまたぐかどうかと、またいだ先でどこまで進むかの両方に、同じ性格が顔を出していたわけです。
一方、残りの3つの暗い性格はサイコパス的傾向ほど一貫した関連は示しませんでした。
他人を計算ずくで操る傾向にいたっては、ごくわずかながら、むしろ年齢の嘘を許しにくい方向に働いていたほどです。
12歳のサバ読みは、一度会えばほぼ確実に露見するうえ、発覚したときに失うものが大きい嘘です。
研究者はこれについて、バレるリスクの高い嘘の「戦略的なコスパの悪さ」を計算できる性格ゆえの反応ではないか、と考察しています。
これまで嘘をつく側の性格を調べた先行研究は複数ありますが、オンラインデートの嘘を評価する側の性格をサイコパスなど暗い性格の枠組みで検証した研究は、今回が初めてです。

