「悲しいし、気持ち悪い」――。8月11日に開幕した徳島県の夏の風物詩・阿波おどり。その陰で、女性踊り手の胸元や腰回りなど、身体の一部を強調した動画がTikTokやYouTubeなどのSNSに投稿され、なかには100万回以上再生されたものもある。
被害を避けるため、女性たちは猛暑のなかでも肌の露出を抑え、衣服を重ねるなどの対策を取らざるを得ないという。撮影する側の問題によって、なぜ踊り手が服装を変えなければならないのか。伝統文化の現場で広がる被害と、対策に苦慮する関係者の声を聞いた。
「こんな形でさらされるくらいなら、もう踊りを披露したくない」
昨年夏、ある女性踊り手が公共施設で練習していた際に撮影された動画がTikTokに投稿され、100万回以上再生された。練習着越しに下着のラインがわかる場面を切り取ったような動画で、コメント欄には踊りとは関係のない、容姿や身体について品評するような言葉が並んでいた。
女性踊り手の胸元や腰回りなど、特定の身体部分をアップにしたり、強調したりする動画を繰り返し投稿するアカウントは、1つや2つではないという。
阿波おどり振興協会代表で、有名連「阿呆連」の第13代連長を務める立川真千氏は、こうした被害が徳島県内でも広がっていると話す。
「もともとは関東圏などの阿波おどりで目立っていた被害ですが、4〜5年ほど前から本場の徳島にもこの悪質な撮影手法が浸透してきました。再生回数を稼いだり、スワイプする手を止めさせたりするため、女性の体の一部を極端に強調・拡大した映像が多数投稿されています」
一度SNSに投稿された動画は、削除要請によって一時的に消えても、別のアカウントに転載されるおそれがある。さらに、動画に映った踊り手個人のSNSアカウントを特定し、メンションを付けて投稿するケースも起きているという。
「見知らぬ不特定多数から『いつどこで見られているか分からない』という恐怖にさらされ、アカウントを非公開に変えざるを得ない子たちがいます。当事者からは『悲しい。そして、気持ち悪い』のほか、『こんな形でさらされるくらいなら、もう踊りを披露したくない』という声も実際に上がっているのです」(立川氏、以下同)
未成年の踊り手をアップで映した動画も…
被害は祭りの本番だけでなく、日々の練習にも及んでいる。
阿波おどりの練習は、一般に公開されることも少なくない。屋外では夜間になると撮影しにくい一方、大きなホールなどで行われる室内練習は照明が明るく、踊り手の姿が鮮明に映る。そうした環境で、女性の身体の一部を強調するような撮影が行われ、SNSに投稿されるケースがあるという。
大人に交じって踊る未成年の踊り手をアップで映した動画も確認されている。
こうした被害を避けるため、現場では踊り手側が対策を取らざるを得なくなっている。女性たちは下着が透けにくい黒っぽい服を着用し、下着のラインが出ないようスパッツをはく。
衣装を着る際には、風で着物の裾がはだけないようピンで留めるなどの対策も行なっているという。
「本来なら猛暑の中でこんな重ね着はさせたくありません。費用面や踊りやすさの観点からも大きな負担になっていますが、現状はそうせざるを得ないのです」
立川氏は、撮影者ではなく、踊り手側に負担を強いている現状に憤りをにじませる。
こうした不適切な撮影を行う人物は、地元だけに限らず、県外から訪れるケースもある。阿波おどりの運営関係者によると、SNSの再生数を稼ぐ目的などで、遠方から撮影に来る人物もいるという。
また、県内や地元の人物が望遠レンズを使い、女性踊り手の身体の一部を狙うように撮影するケースも確認されていると阿波おどりの運営関係者は言う。
「ある男性に『あなたのSNSアカウント、お尻や胸ばかりの映像が多いよ』と直接注意したことがあります。地元ですから、『あの人が女性の身体を強調した投稿をしている』と、すぐに話が入ってくるんですよね。
相手は無言で苦笑いを浮かべて去っていきましたが、反省するわけではなく、後日また平然と撮影に来て、同じような動画を投稿し続けています。
さらに異様なのは、そうした悪質な撮影者の一部が、自らのYouTubeアカウント名などを記載した名刺を差し出して挨拶してくることです。自分から身元を明かしてくる相手に対し、『あなたのアカウント、不適切な動画が多いけれど、どういうことですか』と問いただしても、やはり苦笑いしてごまかすだけでした」(阿波おどりの運営関係者)
こうした状況を受け、動画撮影の全面禁止や、撮影許可証制度の導入を求める声も出ている。

