妻が席を外した間に
結婚指輪を注文した日、妻は刻印の希望欄に2本分の記念日を書きました。俺も数字を確認し、「これでいいね」と答えました。けれど、付き合い始めた頃に妻から聞いた話が残っていました。1人暮らしの部屋へ帰り、誰とも話さずに靴を脱ぐ時間が寂しかったという話です。結婚したら、帰ってきた妻に声をかけたい。その気持ちを指輪にも残したいと思いました。店員が注文内容を確認する直前、妻に仕事の電話が入りました。妻が席を外すと、俺は2本分の刻印を変更したいと伝えました。戻ってきた妻には、「確認しておいたよ」とだけ話しました。相談すれば、驚かせられなくなると思ったからです。
説明しなかった受け取りの日
完成した指輪を受け取ると、妻は自分の指輪の内側を確認しました。
「記念日じゃないんだね」
俺は刻印を変えたことを認めましたが、自分の指輪は見せませんでした。
「家に着いたら、もう1本も見せるよ」
妻は指輪を箱へ戻しました。納得していないことは分かりました。ここまで隠したのだから、玄関で見せるところまで続けたほうがいいと思い込んでいました。帰りの電車でも、妻は膝の上の紙袋を見ていました。俺は何度か話しかけようとしましたが、結局、新居に着くまで理由を伝えませんでした。
