アストンマーティンのアンディ・コーウェル代表は、F1シンガポールGPの後に日本を訪れ、来季からパートナーとなるホンダのパワーユニット(PU)製造を手がけるHRC(ホンダ・レーシング)の開発施設、HRC Sakuraを訪問したことを明らかにした。曰く、開発は順調に進んでいるようだ。
現在メルセデスのPUを使うアストンマーティンは、レギュレーションが大変更される2026年シーズンより、F1に正式復帰を果たすホンダのPUを使うことが決まっている。チームの歴史としては事実上初めて、自動車メーカーのワークスPUを使うことができるわけだ。その上、シルバーストンの新ファクトリーと風洞が完成し既に稼働、空力の天才とも言えるエイドリアン・ニューウェイをはじめとした実績豊富な面々が揃っており、まさに飛躍を目指すためのシーズンと言えるだろう。
そのシーズン開幕まであと5ヵ月と少し。このタイミングでコーウェル代表はHRC Sakuraを訪れた。このHRC Sakuraは、2015年以降のホンダ/HRCのF1用パワーユニット開発・製造を手掛けてきた施設であり、現在レッドブルとレーシングブルズが使うPUもここからF1サーカスに向けて発送されている。
「全て順調だ。ホンダの開発拠点であるHRC Sakuraを2日間にわたって訪問した。良いミーティングができたよ」
「PUを見るのは、今では趣味のようなモノかもしれない。彼らがパフォーマンス、信頼性、そして速いレースカーを作るために必要なああらゆることを追求しているのを見るのは、とても励みになる」
「このミーティングには(燃料を手がける)アラムコ、(潤滑油を手がける)バルボリンも来ていた。アストンマーティン、ホンダも含めた4社が、プロジェクトの進捗状況や、開発を今後順調に進めていく上で何をすべきかについて話し合う機会にもなった」
コーウェル代表は「PUを見るのが趣味のようになっている」と発言した意図について、こう説明した。
「HRC Sakuraは素晴らしい施設だ。エンジンやバッテリーが並べられ、組み立てられ、テストされているのを見ると、このシステムがいかに複雑であるかということを改めて実感する。エンジニアたちがひとつひとつのシステムの効率向上に精力的に取り組んでいるのを見ると、どれだけの努力が注がれているかが分かる」
そうコーウェル代表は語った。
「システムが相互に関連し、どう組み合わされるか……エンジニアにとってこれは実に刺激的だ。空力、トランスミッション、パワーユニット、バッテリー……それらの専門家がひとつのことのためにまとまるのは、本当に刺激的な瞬間なのだ」
作業は順調だと語ったコーウェル代表だが、ライバルとの比較は、今の時点では分からないと、慎重な姿勢も見せた。
「まだ今の時点では、ライバルと比べることはできない。2026年のパーツ構成のどの部分においても、ライバルと比べて自分たちがどこに位置しているのか、それは誰にも分からないんだ」
「しかし私が見ているのは、エンジニアリング主導の組織が、パフォーマンス開発、効率向上、軽量化、そして厳しい信頼性の目標の達成のために尽力しているということだ。彼らの手法やハングリー精神、そしてタイミングへの野心は、本当に素晴らしい」
”ワークスチーム”という立場
前述の通り、2026年からはチームとしては事実上初めて、ワークスPUを使うことになる。それは現在のカスタマーチームという立場とは大きく異なると、コーウェル代表は語る。
「カスタマーチームとはまったく違うね。カスタマーチームの場合は、PUはブラックボックスのようなモノだ。そのブラックボックスの中をいじることはできない」
「ワークスチームならば、パフォーマンスを最大化し、ラップタイムを短縮するために、ホンダのエンジニアとオープンに議論するシステムが数多くある。そして共通の通貨はラップタイムだ。つまり質量や排熱、燃費、重心、空力性能など、全てがラップタイムに反映される。だから結果を見て、『これとこれとこれをやれば、レースのウィークエンドの最初に表示される目標はこれになる』などと考える。エンジニアたちはまさにこの目標に向かって協力し、コンセプトを作り上げ、ラップタイムを一切失うことなくそれを実現していく。これは困難な道のりだ」
「コンセプトはあるが、それを実際にテストベンチで実現するのは、確かに大変だ。パフォーマンスが十分にあり、熱放出が低く、燃費が良く、ポンプの効率も優れていて、クランクパワーも良好、さらに全ての電気系統の効率も良好……それがコンパクトな環境の中に美しく組み合わされるのが、我々が目指すところだ」
なお2026年マシンの最低重量は、現行の800kgから768kgへと大幅に引き下げられる。この重量より重かったとしてもレースに出走することはできるが、この最低重量近くまでマシンを軽量化できた方が、当然パフォーマンスの面ではメリットがある。この軽量化のためには、バッテリーを含めたPUを軽く作ることが重要になる。
「新しいレギュレーションが導入される度に、重量は常に課題となる」
そうコーウェエル代表は言う。
「PU開発に携わるエンジニアも、シャシー開発に携わるエンジニアも、誰もが厳しい重量の目標を達成することを迫られている。剛性に関する目標もある。さらに車体全体の効率も追求しなければいけない」
「空気抵抗が低く、大きなダウンフォースを発生し、高出力、熱の放出率など、あらゆる面で課題を抱えている。誰にとっても厳しい挑戦だ」
ギヤボックス開発など、ホンダとの連携加速
なおアストンマーティンは、現在はメルセデスのカスタマーチームであるため、ギヤボックスもメルセデスからの供給に頼っている。しかし来季からのパートナーとなるホンダは、自社のチーム持っているわけではないため、ギヤボックスを所持していない……つまりアストンマーティンとしては、ホンダPU専用の新しいギヤボックスを、自前で用意しなければいけない。
当然その開発も進められているが、ホンダもこれに積極的に協力しているようだ。
「シルバーストンのファクトリーとHRC Sakuraで、何ヵ月もの間プロトタイプのギヤボックスを動かしてきた」
「クランクシャフトの動きとトランスミッションへの入力との間には、機械力学的な相互作用がある。これについてはホンダと、出力か入力かという、とても興味深い議論をした。境界線のどちら側を見るかによって、見えるものが異なるんだ。そしてドライブシャフトの剛性も同様だ。だから設計段階、シミュレーション、そしてテストベンチでの測定の全てで、双方が協力しなければいけない」
「この6ヵ月、シルバーストンとSakuraのエンジニアたちの協力関係は、大変喜ばしいものだった。そしてデータの円滑なやり取りを確保するための、ITインフラも整備された。シルバーストンにいるエンジニアが、Sakuraのパワートレインのテストベンチで何が起きているかを、リアルタイムで確認できるようになった」
そしてラップタイムを短縮するという面に関しても、ホンダとの連携が進んでいるという。コーウェル代表は言う。
「我々のチームは成熟してきたと思う」
「アイデア出しからCFD(数値流体力学)解析、そして迅速なパーツ製作、風洞実験、そしてそれらの結果をシミュレーションツールに入力することで、ラップタイムの向上を実現してきた」
コーウェル代表はそう語る。
「これはホンダともよく連携しているんだ。ホンダのパフォーマンス・シミュレーションエンジニアと、シルバーストンにいるアストンマーティンのシミュレーションエンジニアは、定期的に話し合いを行なっている。予選と決勝のラップタイムを短縮するために、これらのシステムをどう適切に統合すればいいのかを検討しているんだ」

