「ネット通販で注文した荷物が届かない」――。そんな異変が、いまロシア各地で広がっている。ウクライナ軍が狙いを定めたのは、ロシア最大級の通販サイト「ワイルドベリーズ」の巨大物流網だ。7月以降、各地の倉庫が相次いでドローン攻撃を受け、販売業者が失った商品は約5000億円になるとの試算も。巨大倉庫からガレージやコンテナへ、さらには国境を越えてカザフスタンへ――。前線から1000キロ以上離れたロシア国民の「普通の暮らし」にまで戦争が入り込み、プーチン政権を揺さぶり始めている。
ネット通販で買った荷物が届かない! 「ドローンは倉庫に配達されました」
攻撃はモスクワ州とタンボフ州から始まり、ロシア第2の都市サンクトペテルブルク周辺など各地に拡大。8月7日にはモスクワから東へ約1400キロ離れたウラル地方のエカテリンブルクにも到達した。
「荷物は届かない」
ウクライナメディア「キーウ・インディペンデント」は、一連の攻撃をそう表現した。
エカテリンブルクの攻撃では従業員約800人が避難。7月18日のタンボフ州コトフスクでは従業員7人が死亡し、24人が負傷。モスクワ州エレクトロスタリでも多数が負傷した。
一連の攻撃では8月7日までに少なくとも13人が死亡した。ロシア紙コメルサントが「ドローンが倉庫に配達された」と通販になぞらえたのは、風刺というより悲鳴に近い。
民間通販と軍の補給線との境界はあいまいになっている
ロシアの通販・物流網は、戦争の「毛細血管」と言っていい。ワイルドベリーズには暗視装置、ヘルメット、防弾用品、無線機、無人機関連部品など軍民両用の品が並ぶ。
ウクライナ側は、こうした商品がロシア軍や軍を支援する団体に届いているとして、物流網そのものを攻撃対象と位置付けている。
ワイルドベリーズ側やロシア政府は、同社が軍への物資供給に組織的に関与していることを否定しているが、重要なのは、その先だ。
砲弾なら軍の倉庫から運ぶ。だが無人機戦争で大量に消耗するバッテリー、通信機器、工具、医薬品まで、全てを国防省が軍用トラックで配る必要はない。スマホで「購入する」を押した瞬間、民間通販と軍の補給線との境界はあいまいになる。
ウクライナの攻撃は、実際にロシアの物流を変え始めている。
これまで販売業者は商品を巨大倉庫にまとめて預け、保管から発送まで任せてきた。だが倉庫が次々と燃えると、「一カ所に置くのは危ない」と考え始めたのだ。

