休息時に活発になる脳の領域がある
「どういうことなのか、さっぱりわからなかった」マーカスは信じられないといった様子でかぶりを振った。
「あの発見が何を意味するのか、ちっとも理解していなかった」
理解を阻んでいたのは、2つの大きな疑問だった。作業をすることで何が抑えられ、休むことで何が刺激されているのか。簡単にいえば、私たちが気づかないうちに、脳は舞台裏で何をしているのだろうか?
すぐれた神経科学者なら当然のことだが、マーカスは脳が驚くほど活発な器官であることを理解していた。全体重の2%の重さしかないにもかかわらず、身体のエネルギーのじつに20%も使っている。
そして、すぐれた神経科学者なら当然のことだが、マーカスは脳がさまざまな「ハウスキーピング機能」を実行していることも理解していた。
つまり、人間が起きているあいだに蓄積される毒素や老廃物を取り除く分子の入れ替え作業のことだ。
だが、こうした事実のせいで、この発見はさらに不可解なものに思えた。
まず、大量のエネルギーを必要とする器官が、活動中よりも休息時により活発になるはずがない。さらに脳のハウスキーピング機能では、これほど強力で広範囲にわたる神経活動を説明することはできなかった。
まるで自転車で加速するためにブレーキをかけ、減速するためにペダルを踏むような常識破りの現象だったからだ。
これはぴったりのたとえだ。というのも、人間の脳はつねに活動と休憩のサイクルを繰り返している。考え、熟考し、想像し、新たなアイデアを生み出し、神秘のベールに包まれた意識でさまざまなことを行うためにである。
「私たちには、自分にとって興味深いことをじっくり考える時間が必要だ」とマーカス。
「みずからを戒め、心のなかで起きていることに耳をかたむける必要がある」
努力とリラックスのバランスをとる
懸命に努力して休みなく働くことが確実な成功への道だという考えには、皮肉と悲劇の両面がある。
皮肉なのは、私たちが絶え間なく働いて成功を追い求める一方で、休息によってデフォルトモード・ネットワーク(DMN)を活性化できないために、疲れ果てて仕事の質が低下するということだ。
そして悲劇は、働きすぎが身体的な疲労だけでなく、脳に想定外の負担がかかるせいで精神的に追いつめられ、早死にを引き起こすということだ。
あくまでも仕事に全力を尽くすことに価値があるとする労働倫理を貫きたいのなら、そうしてもかまわない。
だが、本当の意味で長期的な生産性の向上を目指すのであれば、わき目も振らずにあくせく働くよりも、「やり方」(スキルやテクニック)と「あり方」(どのような気持ちで関わるか)、努力とリラックスのバランスをとることのほうが大事だ。
どんなときにCEN(セントラルエグゼクティブ・ネットワーク=目標の達成や高次の認知機能を要する作業を担う脳のネットワーク)を活用し、いつ休ませて回復させるのかを理解する。たとえわずかな時間でも作業から離れれば、その後は驚くほど長く集中することができる。
生産性を持続させるコツは、働くことではなく休むことなのだ。

