跳び箱が怖かった男の子が変わった瞬間
子どもたちが楽しく運動できるように考えられた「Lii sports studio」の室内こうしたコーチングアプローチに基づいた運動をしていくと、子どもたちに明らかな変化が見られるという。1つは気持ちの変化。たとえば、ある男の子の場合。その子は保育園で跳び箱を見るだけで教室から出て行ってしまうほど苦手意識を持っていたそうだ。そこで廣瀬さんたちは、彼が大好きな恐竜を使ったアプローチをした。卵に見立てたボールを持たせたり、草に見立てたマットなどを避けたりしながら、恐竜になりきって走り回ってもらう。そのうち慣れてきたら岩に見立てた跳び箱を1段追加。すると、恐竜になりきったその子は気がついたら跳び箱を跳んでいたという。さらに、その場面を動画で撮影して本人に見せたところ、「あれ? 僕、跳べてる!」と嬉しそうにしていたそうだ。
「それまでは気持ちのブロックが大きかったようなんです、でも自分が跳び箱を跳べている様子を視覚的に認識することで、そのブロックが外れたのだと思います」
その後、なんと彼は保育園で跳び箱の時間に見本を見せるまでになり、保育園の先生もびっくりしたという。こうした「自分はできる」という自己肯定感を持たせるようなアプローチのコツはどんなところにあるのだろう。
「失敗しても大丈夫」と思える子に育てるには
「Lii sports studio」ではどの子も楽しそうに身体を動かしている自己肯定感を養う上で、「自分は失敗しない」と考えるのではなく「自分は失敗しても立ち上がれる」「自分は何があっても大丈夫」と思える「自己効力感」が重要だと廣瀬さんは語る。
「子どもの頃のスポーツ経験は、うまく投げられなくてももう一回やってみよう、次はこんなふうに投げてみようと、失敗しながら少しずつできるようになっていく、すごくいい機会です。そうした失敗から立ち上がる経験を重ねることで、自己肯定感も養われていくのではないでしょうか」
実際に「Lii sports studio」の中でも、どんな失敗があってもまずはチャレンジしたことを褒めるようにしているという。たとえばキャッチボールをしたら、まずはキャッチボールに取り組んだことを褒める。そこでたとえボールをうまくキャッチできなくても、ボールを追いかけたことを褒める。さらにもう一度チャレンジしたら、そのことを褒めるのだそうだ。
「スポーツの試合となるとそうはいきませんが、子どもの運動遊びの場においては『もうこの1球しかない、失敗したら終わりだ』ということはないので、9回失敗しても10回目で成功すれば、それが成功体験になる。しかも周囲も『諦めずに10回チャレンジしたね』とか『こういう工夫をしたからできるようになったね』などと、褒めポイントを見つけやすいという利点があります」
運動を通じて自信を育み、自己肯定感につなげるという方法は、発達に課題がある子どもに限らず、どんな子どもの成長にも応用できそうだ。
廣瀬さんたちは、児童発達支援の取り組みを海外でも展開しようとしている。その際、現地視察で訪れたドバイで興味深い出来事があったという。ドバイには世界中のあらゆる国のあらゆる文化、習慣を持った人が集まっているため、現地の学校では、宿題を忘れても、授業中に歩き回っても、日本ほど大した問題とは捉えられないのだそうだ。
日本の子どもたちの精神的幸福度も、良質な運動の機会を得て自己肯定感を持てるようになれば、おのずと上がるのかもしれない。
text by Kaori Hamanaka(Parasapo Lab)
写真提供:株式会社リィ
