
ドイツのルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン(LMU)で行われた研究によって、4歳児の90%が、相手の間違った主張を一撃で崩せる「決定的な証拠」を選び取れることが示されました。
証拠を使って相手の誤りを示す「反証」と呼ばれるこの営みは科学者の仕事の核心であり、大人でも理屈と証拠を混同してしまうことが珍しくない高度なスキルです。
それを入園したての園児ほどの年齢の子どもがやってのけるというのは、にわかには信じがたい話かもしれません。
しかし研究チームは論文の中で「4歳という早さで、子どもたちは証拠による反証の真の理解を示した」と記述しています。
そんな小さな子どもたちが、なぜ「どの証拠なら言い逃れを許さないか」を見抜けるのでしょうか?
研究内容の詳細は『Developmental Psychology』にて発表されました。
目次
- 4歳児は「口だけ」ではなく「証拠」で反論する
- 1年半で、子どもは”反論の武器”を増やしていく
- 反証の芽は、教室より先に育っている
4歳児は「口だけ」ではなく「証拠」で反論する

子どもの前でうっかり間違ったことを言うと、間髪入れずに「ちがうよ!」と訂正される、そんな経験を持つ人は多いはずです。
幼い子どもの反論といえば、「ちがうもん!」「そんなのウソだよ!」と理屈より先に感情が飛び出すばかりだと思っていた大人たちにとって、その的確さに思わず冷や汗をかくこともあるでしょう。
しかしこのような子どもたちの「ちがうもん!」が、感情にまかせた言い張りのまぐれ当たりだったのか、子どもなりに根拠を伴った反論だったのかは、不明なままでした。
主張と証拠を結びつけて議論する力(科学的議論能力)がいつ芽生えるのかが、よく分かっていなかったからです。
というのも、この手の研究はこれまで大人や中高生が中心だったからです。
そこでLMUの研究チームは、ドイツ都市部の子ども約200人を4歳から5歳半まで追いかけるという、就学前の子どもを対象にしたものとしては初となる本格的な調査に乗り出しました。
調査に当たってはまず、感情の言い張りと根拠ある反論を切り分けるためシンプルな仕掛けを用意しました。
「黒い点が描かれた物」を載せたときだけ光る特製の箱です。
大きさや形は一切関係ありません。
子どもたちは自分で試して、「光らせているのは黒い点だ」という正解をしっかり掴みます。
実際、4歳児の97%が、初めて見る箱についても光るかどうかを正しく予測できるようになりました。
そこへ人形が現れて、自信満々に間違いを言い放ちます。
「大きい物が箱を光らせるんだ! 黒い点なんて関係ないよ!」
この人形は、子どもたちが箱の仕組みを調べている間は眠っていて、光る仕組みを知らないまま勘違いを口にしているという設定です。
この勘違い人形のドヤ顔の主張に、4歳児たちはどう反撃したのでしょうか?
感情にまかせた「ちがうもん、ちがうもん」でしょうか?
それとも科学的に反証と言える域に達した反論だったのでしょうか?
その結果はかなり意外なものでした。
4歳児の55%が「箱が小さくても光るよ」「黒い点があるのが光るんだよ」といった筋の通った反論を自分の言葉で展開してみせたのです。
もっとも逆を言えば、半分近くは、理由まで言葉にすることはできなかった、とも言えます。
しかし、理屈を言葉に組み立てて説明するのは、大人にとっても簡単なことではありません。
そこで研究者たちは言葉のいらない証拠選びテストを行いました。
4歳児たちの目の前に「黒い点がある小さい箱」と「黒い点がある大きい箱」の2種類の箱を置いて、「人形が間違っていると分からせる物を選んでね」と頼んでみたのです。
子供たちが知る真実「黒い点があれば箱は光る」と勘違い人形の言う「大きければ箱は光る」の真向対決です。
すると子どもたちの90%が「黒い点がある小さい箱」つまり「大きければ光る」という人形の主張を一撃で崩せる決定的な証拠を選び取ったのです。
口ではうまく説明できなかった子の多くも、どの証拠が相手を追い詰めるかは、しっかり見抜いていたことになります。
研究チームはこの結果について、4歳児の多くが、誤りだと知っている主張に直面したとき、曖昧な証拠と明確な証拠を区別し、証拠による反証を真に理解していることの証だと結論づけています。
1年半で、子どもは”反論の武器”を増やしていく

ではこの反証能力は、年齢とともにどのように変化するのでしょうか?
研究者たちは同じ子どもたちを4歳と5歳半の2度にわたって調べ、この「1年半」で起こる発達を追跡しました。
すると4歳では55%だった言葉で理由付けできた子の割合が、5歳半になると71%まで増加したことがわかりました。
さらに興味深いのは、反論の「型」が豊かになっていくことです。
4歳の時点では、反論の中心は「小さくても光るよ」という「光る実例」を突きつけるスタイルでした。
そして「大きくても光らないのがあるよ」という逆方向からの反証、つまり「光らない実例」を突きつけるスタイルは、4歳ではわずか5%とごく少数派でした。
「光った」という誰にでも明白な事例で反証するのは単純で楽ですが、「光らない場合がある」というときは出来事を裏側から眺め直す、頭の中の一回転が必要なぶん、より高度なため小さい子たちには難易度が高めなのです。
ところが5歳半になると「光らない実例」を持ち出す子が約15%と3倍に増えていました。
そして別の「本当に見るべきはここだよ」と本質を突く反論スタイルも、4歳でこの型を使った子は22%にとどまりましたが、5歳半では51%へと倍増していました。
こうした発達は、複数のルールや相手の視点を頭の中で切り替える力の伸びと足並みを揃えていることも示されました。
反論の手数が増えるとは、同じ出来事を「見える光る側から」「見えない光らない側から」「本質へ」と、複数の角度で眺め直せるようになることだったのです。

