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テストステロン注射を受けた男性、体の各部位が話しかけてくる症状を発症

テストステロン注射を受けた男性、体の各部位が話しかけてくる症状を発症

それでも彼にはホルモンが必要だった

それでも彼にはホルモンが必要だった
それでも彼にはホルモンが必要だった / Credit:Canva

意外なのは、このケースが「テストステロン治療をやめて終わり」ではなかったことです。

男性の体は、依然としてホルモンの補充を必要としていました。

退院後10日、1か月、2か月と続いた追跡で、男性の精神状態は安定を保ちました。

苛立ちは消え、睡眠は正常に戻り、幻聴や妄想も完全に消えたまま再発しませんでした。

この安定を見届けたうえで、内分泌の専門医と精神科医は相談のうえ、慎重に治療を再開するという決断を下します。

ただし今度は、投与の間隔を月1回から3週間ごとへと見直したうえで、精神症状の再発の兆候がないか、精神科の厳重な観察のもとで経過を追い、本人と家族にも注意すべきサインが共有されました。

ホルモンの欠乏が治療を必要とする場合には、こうした見守りのもとで慎重な再開が選択肢になりうる——論文はそう述べています。

もっとも、この報告はあくまで1人の患者を観察した症例報告であり、テストステロンと精神症状の因果関係を断定できるものではありません。

今回のような重い精神症状はまれな副作用として報告されているもので、ホルモン補充療法は多くの患者にとって骨や筋肉、活力を支える大切な治療であり続けています。

今回の症例が示しているのは「治療が危険だ」ということではなく、「安全と考えられてきた治療でも、体質によっては思わぬ形で心に影響が現れることがある」という教訓です。

その意味で、著者らが提言する対策は極めて実践的です。

ホルモン療法を始める前に精神面のチェックを行うこと、治療中も心の状態を観察し続けること、そして異変が現れたら速やかに投与を見直すこと。

大規模な研究の網からこぼれ落ちる稀な副作用をすくい上げ、医療の死角に光を当てる――45年間見過ごされてきた1本のX染色体が教えてくれたのは、そんな症例報告という営みの底力なのかもしれません。

元論文

Parenteral Testosterone–Induced Acute Psychosis in Klinefelter Syndrome
https://doi.org/10.4088/PCC.26cr04203

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部

配信元: ナゾロジー

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