なぜ眠らなかっただけで走り方が変わるのか?

走っている間、脳は着地の瞬間に備えて、脚の筋肉をあらかじめ働かせ、脚全体をバネのように硬く準備しています。
地面に足がつく前に「この先の衝撃」を予測して体を整える、いわば先読みの制御(フィードフォワード制御)です。
研究チームは、睡眠不足がこの先読みの精度を鈍らせると考えています。
脚の準備が間に合わないまま着地するため、足が地面についている時間が延びる、という筋書きです。
筆頭著者のセイナエブ氏も、睡眠不足で注意力が落ち、着地への準備に集中できなくなることを仮説として挙げています。
一歩ごとのばらつきが増えたのも、同じ根から説明がつきそうです。
睡眠不足は体の感覚を捉えて動きを調整する働きや、注意を保つ働きを鈍らせるため、リズミカルな運動を一定に保ちにくくなると考えられるのです。
寝不足の朝に足元がおぼつかなくなるのと同じような仕組みが、ランニングのフォームにも顔を出していたのかもしれません。
そして、この動きの変化が気になるのは、怪我との関係です。
2025年に発表された339人のランナーを半年間追跡した研究では、睡眠の質が悪いランナーほど怪我のリスクが36%も高いことが報告されています。
ただ、なぜ寝不足が怪我につながるのか、その中身はよく分かっていませんでした。
しかし今回の研究結果により、寝不足が体の各部位にかかる負荷の配分を変え、怪我リスクを押し上げる一因になっている可能性がみえてきました。
古くから寝不足と怪我は「頭がボーっとしているからだ」のように抽象的に言われてきましたが、私たちはついに、その具体的な中身に手を伸ばしつつあると言えるでしょう。
大事なレースや長い距離を走るアスリートたちにとっては、前日にちゃんと眠ることの意味も変わるかもしれません。
苦労して身に着けたフォームを本番で発揮し、体を怪我からを守るという、より具体的な目的もなるはずだからです。
元論文
Detecting Sleep Deprivation from Running Biomechanics Using Machine Learning Classification: A Comparison Between Wearable and Laboratory Motion Capture
https://doi.org/10.64898/2026.07.14.738397
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

