8月20日午前10時45分ごろ、栃木県鹿沼市鳥居跡町にある東武日光線・新鹿沼駅の構内で、東武日光発浅草行きの上り特急「スペーシアX2号」(6両編成)が除草作業で線路内にいた53~67歳の男性作業員4人と次々接触し、4人はいずれも死亡した。列車の乗客と乗員にけがはなかった。東武鉄道によると、作業チームは事故の直前、列車の接近を知らせる「見張員」の1人と意思疎通ができず、別の見張員は作業員が線路内にいるのに列車に“進入可”の合図を送っていた可能性がある。
列車見張員との意思疎通ができる状況ではなかった
列車は新鹿沼駅で停車する予定で、減速しながら同駅の上りホームに近づいた。しかし、現在使われているホームより手前側に使われていない旧ホームがあり、その下の線路にいた4人を発見して急ブレーキをかけたが間に合わなかった。
旧ホームは下部に空間がなく、線路から退避するスペースがない危険な場所だった。そこにいた4人になぜ列車の接近が知らされなかったのかが事故原因究明のカギになるとみられる。20日のうちに栃木県警は現場検証を行ない、運輸安全委員会の鉄道事故調査官も現地調査を始めた。
東武鉄道は同日夕、都内で記者会見を開き、鉄道事業本部長の鈴木孝郎専務が「このような重大な事故を発生させたことを真摯に受け止めまして、今後、事故の原因を究明した上で、2度とこのようなことが起きないように再発防止策を徹底してまいりたいと思います」と述べ謝罪した。
会見で東武鉄道は、現場にいた関係者のほとんどが県警の事情聴取に応じているので会社としては聞き取りができていないとして、事故の状況を尋ねる質問にたびたび「確認できない」と答えた。説明の訂正もあって混乱したが、同社が会見で説明した内容だけでも現場で安全確保のための決まりに反した状況が複数あったことが浮かんできた。
説明では当時作業関係者は10人おり、列車から見て4人と接触した地点より約80メートル手前に「列車見張員」が、同約315メートル手前の踏切には「中継見張員」が、それぞれ1人ずつ配置されていた。
同駅の手前の線路が緩やかにカーブし見通しが悪いため、列車が近づけばまず中継見張員が黄色い手旗の合図で列車見張員に伝え、この見張員が線路上にいる作業員に退避を促す“リレー体制”がとられるはずだった。
ところが「中継見張員は(配置地点の)踏切についていたが、列車見張員との『意思疎通ができる状況ではなかった』と言っています。(実際に旗で)合図を出したかどうかは調査中です。意思疎通ができないというのがどういう状況かは分かりません」(佐藤晃一・同社施設部長)というのだ。
列車見張員が列車に向けて手旗で「列車接近了解合図」を送ったが…
現場には作業を統括する「作業指揮者」が必ず置かれ、今回も例外ではなかった。
佐藤部長は「作業指揮者は列車見張員同士がしっかり意思疎通が確認できる場所に配置されているということを確認した上でないと作業はしてはいけない」と、当然の原則を説明したが、列車が近づく中で見張員間の連絡途絶が実際に起きていた。
さらに、列車の運転士の証言では、2人の見張員のうち、より事故現場に近い列車見張員が、列車に向けて手旗で「列車接近了解合図」を送ったという。
この合図は「(作業員)全員の退避が完了し、列車の通過に支障がないことを確認した後に」(同社マニュアル)列車に送られるもので、これを見た運転士は当然安全確認ができていると受け取るはずだ。
事故直前、列車接近了解合図を見た運転士は規則に従い、確認したとの意味の警笛を一瞬鳴らし新鹿沼駅上りホームへの接近を続けた。そこに、退避していない4人の作業員がいた――。
にわかには信じがたい了解合図の発出。列車見張員から聞き取りができていない東武鉄道は「私たちも、なぜその状況で列車接近了解合図が上げられるんだというところは非常に気になっているところではあるんですけれども…」(佐藤部長)と、説明ができない状況だ。

