
三顧の礼を尽くした劉備に孔明が応え、「天下三分の計」を説く、希望コミックス版『三国志』21巻(潮出版社)
横山『三国志』全60巻で、夏休みが楽しくなる?
夏休みに何かひとつのことをやり遂げたい、そう考えている人もいるかと思います。まだ何をやるか決まっていない人にお勧めなのが、横山光輝版『三国志』のいっき読みです。単行本で全60巻、文庫本でも30巻あるので、マンガとはいえ読み終えた後の達成感は、半端ではありません。
2世紀から3世紀にかけての中国を舞台にした実話ベースの『三国志』は、名前のあるキャラクターだけで2000人以上になりますが、『鉄人28号』や『仮面の忍者 赤影』で知られる横山光輝氏の画力と明快なストーリーテリングによって、読み始めると止まらなくなってしまいます。学校の図書室や町の図書館などにもあったので、子供のころに読んだ人も多いでしょう。
横山氏が職人的技量をフル発揮し、16年もの歳月を費やして完成させた『三国志』ですが、そのハイライトシーンとも言えるのが「赤壁の戦い」です。天才軍師・孔明の鮮やかな活躍に、気分爽快、超ハイテンションになることは間違いありません。
劉備のもとに次々と集まる豪傑たち
物語は、小さな村でムシロを売っていた貧しい若者・劉備が、天下無双の豪傑である張飛、関羽と義兄弟の盃(さかずき)を交わす「桃園の誓い」から始まります。実は劉備は漢王朝の血を受け継ぐ末裔(まつえい)で、戦乱の世を鎮めたいと願っていました。劉備の人柄に惚れ込んだ張飛、関羽と義勇軍を結成し、立ち上がることになります。
劉備、張飛、関羽の3人が主人公だから「三国志」なのかなと思って読み進めていくと、そうではないことに気づきます。のちに「魏」を興す奸雄の曹操、「呉」を治める孫権といったライバルたちが続々と登場します。劉備が王位に就く「蜀(しょく)」を含め、3つの国が争うことから「三国志」というタイトルになったわけです。それが分かったときには、物語の壮大さに愕然としたものです。
横山光輝作品は、『バビル2世』『マーズ』など「ハリウッドで実写映画化すればいいのに」と思うような物語のスケールの大きさが魅力です。戦時中に神戸空襲を経験し、焼け野原となった街で少年期を過ごした横山氏は、吉川英治氏の小説『三国志』などを読んで育ったそうです。横山氏が描く『三国志』で戦禍に巻き込まれた庶民たちが苦しむ様子は、リアルな戦争体験が投影されていたようです。
人望があり、大志を抱く劉備のもとに、剣客、趙雲も新たに加わります。『バビル2世』に、ポセイドン、ロプロス、ロデムと「3つのしもべ」がいたように、天下の豪傑たちが次々と集まっていく展開に、ワクワクさせられます。
そして、天才軍師・孔明が登場し、物語は最高の盛り上がりを見せることになります。

横山三国志における赤壁の戦いが描かれる、希望コミックス版『三国志』26巻(潮出版社)
