
「自分が失点しなければ負けない」鹿島が今季15回目のクリーンシート。GK早川友基の充実ぶり。代表の基準を持ち続け「引き出しをもっと増やせればいい」
2025年シーズンのJ1もラスト5戦というところで、勝点65で首位に立つ鹿島アントラーズ。柏レイソル、京都サンガF.C.、ヴィッセル神戸の2位グループとは5ポイント差で、10月17日の神戸、25日の京都とのアウェー2連戦で首尾よく勝点を積み上げれば、2016年以来9年ぶりのJ1タイトルが見えてくる状況まで来ていた。
最初の関門が、リーグ連覇中の神戸との一戦。敵地ノエビアスタジアム神戸はピッチを張り替えられていたが、“アウェーの洗礼”を痛感。鈴木優磨は「すごく滑るんですよ、下が。スリッピーなんでボールタッチも難しいし、ワンタッチでのプレーが怖いんですよね」と本音を吐露する。その環境を知り尽くしている神戸に分があったのは確かだ。
案の定、神戸はエースの大迫勇也に長いボールを蹴り、彼を起点にサイドから矢継ぎ早にクロスを入れてくるという圧力のある攻めを仕掛けてきた。鹿島は開始から30分まで、ほぼ防戦一方の展開を強いられた。
そこで勇敢に立ちはだかったのが、日本代表帰りの守護神・早川友基だ。開始2分、右CKからの武藤嘉紀のヘディングシュートを確実にキャッチし、その1分後、宮代大聖のクロスに反応した大迫の左足シュートを阻止するなど、序盤から次々と相手の決定機を防いでいく。
その大迫のシュートを止めた直後、右膝を痛めるアクシデントもあったが、「芝生に膝が刺さって抜けない感じになっちゃいましたけど、逆にその後の方が動きが良くなりました」と本人は笑っていたほど。早川のタフさに味方も大いに助けられたはずだ。
鹿島はしぶとく0-0で試合を折り返し、後半に突入すると、攻撃のギアを徐々に上げ始めた。早川は終盤にはハイパント攻撃を多用した。
「自分もちょっと冷静さを欠いていたんで、そこは反省かなと。もっと全体が押し上げてからハイパントを狙うのはアリだったと思います」と厳しい自己評価を下したが、チームは0-0のスコアレスドローに持ち込み、今季15度目のクリーンシートを達成した。内容的に大きく相手に上回られたことを考えると、勝点1は御の字だったと言っていい。
この日も早川はスーパーセーブを連発。異彩を放ち、チームを救った形だが、本人は代表からの切り替えが難しかったという。
「代表のシュートのスピード感に身体が慣れた状態でこっちに来た時、身体がそれに反応しちゃうんです。シュートを打たれた時に『ピクッ』て身体が速く動いちゃったりするんで、それをいかに我慢して、こっちのプレーに戻すかというところが難しかった。この数日で直すのにだいぶ苦労しました」と彼は言う。
やはり代表へ行けば、かつての鹿島時代の盟友・上田綺世(フェイエノールト)や欧州5大リーグで活躍中の南野拓実(モナコ)、堂安律(フランクフルト)といった面々の強烈なシュートを受ける分、反応を速くしなければいけない。その強度やスピード感はJリーグと微妙に違ってくるのだろう。
7月のE-1選手権から代表に参戦するようになった早川の場合、代表とクラブの切り替えの経験値が大迫敬介(広島)らより少ない。自分なりの最適解を模索しながら、何とか神戸との大一番を乗り切ったのだ。
加えて言うと、代表の10月シリーズで日本が一度も勝ったことがなかったブラジルに3-2で競り勝ち、その歴史的な勝利を経験して、代表の熱気や強度を鹿島に持ち込むことも期待された。本人もあれだけ緊張感のある大一番に身を投じたことがなかったため、メンタル的に多少の難しさを感じたようだ。
「僕はブラジル戦には出てませんけど、世界で名の知れている選手たちと試合をするとなった時のプレッシャーは凄まじかった。そのチームの中から鹿島に戻ってきて、切り替えは難しかったですけど、『自分にやれることを出し切るだけだ』と思って取り組みました。
E-1、9月、10月と代表招集を重ねて、徐々にあのレベルに慣れてきているのかなというところはある。その基準を常に持ち続けながらも、鹿島でできるプレーの引き出しをもっともっと増やせればいい。自分が失点しなければチームは負けないので、最低限の仕事は続けていきたいです」と早川は視座をより高めて、悲願のJ1制覇に突き進む構えだ。
傑出した安定感を次の京都戦でも維持し、完封を継続していく必要がある。それは早川のみならず、最終ラインを統率する植田直通らも分かっていること。鹿島が頂点に立つためには、堅守を貫き、失点を最小限に抑えることが最善策だ。
今季にリーグタイトルを掴めれば、早川自身の2026年北中米ワールドカップへの道も確実に開けてくる。そうなるように、成長著しい守護神には、今回の神戸戦で大迫や武藤を封じたような鋭いパフォーマンスを示し続けてほしいものである。
取材・文●元川悦子(フリーライター)
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