“円満離婚”弁護士として、15年間で1000件以上の離婚劇に立ち会ってきた原口未緒さん(50)。夫の浮気やモラハラ、価値観の不一致――離婚の理由は時代とともに姿を変えてきた。今回は現代に多い離婚事情と、芸能人夫婦の実例を交えながら、泥沼化を避け、前向きな人生を選ぶための秘策を聞いた。(全4回の4回目)
離婚理由は夫の浮気→モラハラ→そして現代は…?
離婚トラブル専門の弁護士として、2010年に独立してから15年間で1000件以上の離婚劇を見届けてきた原口さん。離婚理由は時代とともにどう変化していったのか。
「私が弁護士になった2000年代は、『夫の浮気』が圧倒的に多かったです。昔のお父さんって今よりもっとギラギラしてた。でも2015年以降になると、『夫のモラハラ』が急増しました」(原口さん、以下同)
きっかけは、おしどり夫婦として知られていた高橋ジョージと三船美佳夫妻の離婚劇だ。一部報道によると、三船さんが高橋さん側から「お前が生きているのは、俺のおかげ」など人格否定の言葉を浴びせられたと主張したことで、“モラハラ離婚”と連日ワイドショーを賑わせた。
「『モラハラ』という言葉が世の中に広く認知されたことで、一気に相談件数が増えた」というが、モラハラ相談はコロナ禍直前には下火になり、次にコロナ禍で急増したのが『妻のワンオペ育児』。そしてコロナ禍後の現在、特に増えているのが『妻の不倫』だという。
「セックスレスがきっかけで、妻側の不倫が増えている印象です。妻側不倫の場合、『夫にバレた』と相談に来る方が多く、大半が『離婚で構わない』とおっしゃいます。そのため内容としては、慰謝料請求された場合の対応や親権の取り合いなどが多いですね」
しかし、妻側不倫が増えることで、親権争いを巡って事態が大きくなることも。
「親権は、子ども目線でどちらに引き取られるほうがいいのかが重要になってくるので、不倫は親権には影響がないんです。だからたとえ、不倫をしていても母としての役割を十分担っていた場合、夫としては『妻も寝取られ、離婚して、子どもも奪われる』状態になってしまう。そうなることを見越して、『夫が子どもを連れ去って帰ってこない』という相談も多いんです」
そうなった場合、「速やかに警察に相談してください」と呼び掛ける原口さん。ではいったいなぜこれほど『妻の不倫』が増えたのか。その背景について聞いてみると、
「『男性の草食化』を叫ぶ声もありますが、不倫が増えたのではなく、単純に見つけやすくなっただけだと感じています」
と、原口さんは分析する。
また、妻側の不倫が一時、急増したかと思いきや、直近では夫側の不倫も追従し、今は半々ぐらいの相談件数だという。
「最近は位置情報アプリを駆使したり、探偵だって気軽に雇える。SNSの“サレ妻”“サレ夫”界隈で『こういう場合、こうしたらいい』などの情報共有もされるなど、どちらも黙っていない風潮が強まったのではないでしょうか」
泥沼離婚の定義と、円満離婚のコツ
数々の愛憎乱れる離婚劇を“円満離婚”へと導いてきた原口さん。そもそも離婚の“泥沼化”とはどういった状況なのか。
一つ目は、「心の整理ができず、ずっと悔いが残ること」。
原口さんの母も23年前、裁判の末に離婚を成立させたというが、「母は最後、兄に促されて父と和解しましたが、『本当は最後まで争いたかった』と今でも悔いています。大事な決断を他人に委ねないことが大事です」
二つ目は、「離婚に行き着くまでに時間がかかり、離婚裁判に発展するケース」だ。
「離婚のために裁判を起こす夫婦って全体の1%なんです。特に芸能人ってイメージを下げたくないので、比較的さっさと離婚する方が多いんですが、川﨑麻世とカイヤ夫婦は控訴審まで争われていました。最後、麻世さんが逃げ切る形で決着をつけましたが、あれはまさに“泥沼離婚劇”の代表だったと思います」
では離婚をこじらせる人と、希望条件で離婚にたどり着ける人の差はなんなのか。原口さんいわく、最も重要なのは「心の整理」だと説く。
「相談者の中にはパートナーへの恨み節を延々と吐き出す方も多い。そういう方には1冊のノートを用意してもらい、そこに恨み辛みを思う存分書き出してもらいます。それを終え、スッキリした状態で、なぜ離婚したいのか、離婚後の人生をどう歩みたいのか、自分自身に意識を向けてもらいつつ、一緒に考えていく手法を取っています。
『あいつが悪い』だけだと遺恨を残しやすい。たとえ、それがパートナーの浮気だったとしても、なぜ浮気が嫌だったのかを探ることで、どういうパートナーシップを望んでいるかが明確になります。そこで修復に切り替える人もいれば、離婚に舵を切る人もいる。行きたい方向が明確になることで答えはおのずとでてくるのです」

