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無機物に興奮してしまう性的マイノリティ「オブジェクト・セクシュアリティ」

無機物に興奮してしまう性的マイノリティ「オブジェクト・セクシュアリティ」

Credit:canva

2007年、あるアメリカ人女性が、フランス・パリのエッフェル塔に深い恋愛感情を抱き、「結婚式」を挙げました。

もちろんこれは法的に認められた結婚ではありませんが、この出来事は世界的に報道され、「無生物を愛する女性」として話題になりました。

彼女のように、人間ではなく建造物や機械など“無機物”に恋愛感情や性的興奮を抱く人々は、実際に存在しておりこのような特殊性癖は「オブジェクト・セクシュアル(objectum sexual)」と呼ばれています。

この性癖には、機械、建築物、楽器などの無機物、あるいは「水が噴き出す瞬間」のような無機的な物体の動きや現象さえ含まれます。

こうした傾向をもつ人々の中には、「人間の存在そのものが邪魔に感じる」と語る人もいます。

つまり、恋愛や欲望の対象が「生きた他者」ではなく、「形や動きそのもの」へと向かうのです。

近年、心理学や神経科学の分野では、こうした「オブジェクト・セクシュアリティ(Object Sexuality)」という現象を、単なる奇異な嗜好としてではなく、性的指向の一形態として理解しようとする研究が進んでいます。

アメリカの性科学者エイミー・マーシュ博士の調査によれば、オブジェクト・セクシュアルの人々は、無機物を単なる“モノ”ではなく感情を持つ存在として捉え、しばしば「相思相愛の関係」として認識すると報告しています。

また、イギリスのサセックス大学の研究では、こうした人々の多くが自閉スペクトラム(autism spectrum)や共感覚(synaesthesia)といった神経発達特性を併せ持つ傾向があると報告しています。

性的マイノリティを理解しようという話はよく聞かれますが、現代では従来の社会では「奇妙な性癖」とされてきたものが、人間の感覚世界の拡張現象として再評価され始めています。

この記事では、無機物に興奮するというオブジェクト・セクシュアリティに焦点を当て、どんな形で現れるのかを、実際の研究と事例をもとに解説します。

目次

  • “モノ”を愛する人たち――オブジェクト・セクシュアリティとは何か?
  • なぜ“無機物”や“特定の動き”が性的に感じるのか
  • 特殊な性癖は病気なのか?

“モノ”を愛する人たち――オブジェクト・セクシュアリティとは何か?

オブジェクト・セクシュアリティ(Object Sexuality/Objectophilia)とは、人間ではなく無生物に対して恋愛感情や性的興奮を覚える傾向のことを指します。

これは日本では「モノ性愛」と訳されたりしています。

心理学的には「パラフィリア(paraphilia)」――つまり一般的でない性的嗜好の一種に分類されますが、近年ではそれを病気ではなく“性的指向の多様性”として理解すべきだという主張が強まっています。

実際のケースに見る「モノ性愛」

代表的な例として知られるのが、エッフェル塔と結婚した女性エリカ・エッフェルさん(本名はErika LaBrie)です。

彼女は2007年にパリのエッフェル塔との「結婚式」を挙げ、塔の鉄骨を優しく撫でながら「彼は私の伴侶だ」と語りました。

この事例は一時的なパフォーマンスではなく、真剣な愛情関係として本人が長年築いてきたものだといいます。

同様に、ドイツではベルリンの壁に強い愛情を抱いた女性や、楽器やフェンス、橋、建築物をパートナーとみなす人々も報告されています。

2009年に報告されたマーシュ博士の調査では、21人のオブジェクト・セクシュアル当事者のうち、多くが「モノには意思があり、相思相愛の関係が成立する」と信じていることが分かりました。

彼らにとって、その“モノ”は単なる物体ではなく、人格を持ち、心で通じ合う存在なのです。

このような傾向は、単なるフェティシズム――特定の物体や素材に性的興奮を覚える嗜好――とは異なります。

オブジェクト・セクシュアリティでは、性欲だけでなく恋愛感情や深い絆の感覚が伴うのが特徴です。

なぜ無生物に惹かれるのか?

イギリス・サセックス大学の心理学者ジュリア・シムナー博士(Julia Simner)らの研究は、この疑問に神経科学的な調査から迫りました。

彼らが2019年に発表した論文によると、オブジェクト・セクシュアルの人々には自閉スペクトラム特性(autism spectrum traits)や共感覚(synesthesia)の傾向が高いことが示されました。

共感覚とは、ある感覚刺激が別の感覚と連動して感じられる現象のことです。

たとえば、音を聞くと色が見えたり、文字に特定の感情を感じたりするような状態を指します。

この研究では、オブジェクト・セクシュアルの人々が無生物を“生きているかのように感じる”知覚特性を持っている可能性があると指摘されました。

その結果、人間ではなく“形”“素材”“動き”といった要素に情緒的な魅力を感じやすくなるのです。

またマーシュ博士のインタビュー調査でも、モノに「エネルギー」や「心」を感じるという証言が多く見られました。

つまり、オブジェクト・セクシュアリティとは、共感覚を背景とした無生物に対して人のような感情や人格を感じ取る、独特な感覚処理の傾向を持つ人々に見られる現象だと言えます。

つまり、彼らにとって「モノ」は単なる物理的な構造物ではなく、感情や存在感を伴って知覚される対象なのです。

さらに特殊な「動き」や「現象」に惹かれる人たち

オブジェクト・セクシュアリティの中には、さらに特殊なタイプとして、「動き」や「現象」そのものに性的魅力を感じる人々もいます。

たとえば、水が吹き出す瞬間、煙がゆらめく様子、機械が規則的に振動する動きなどに強い興奮を覚えるケースです。

例えば液体に惹かれるというような傾向は、フェティシズム研究で知られる「体液フェティシズム(fluid fetish)」や「尿性愛(urolagnia)」などと一部重なりますが、より抽象的で、“流体の動きそのもの”に惹かれるなどの点が特徴です。

心理的には、流れるもの・噴き出すものに「生命の象徴」や「快楽の放出」といった意味を投影している場合もあります。

しかし、このタイプは非常に珍しく、研究対象になることはほとんどありません。物質の動きや流体は適切な再現が難しく、実験やアンケートでも把握されにくいためです。

そのうえ、社会的に語りにくいテーマであることから、当事者が公に話すことも少ないのが現状です。

研究者の中には、このような傾向を“現象性愛(phenomenon sexuality)”と呼び、オブジェクト・セクシュアリティの一変種として位置づける仮説を提案する者もいます。

ここでは物体そのものよりも、「物体が示す動き・エネルギー・刺激構造」に惹かれるとされます。

言い換えれば、人間の感情や性欲が、物理現象のなかに“生命の形”を見いだすという不思議で奥深い現象だといえるでしょう。

なぜ“無機物”や“特定の動き”が性的に感じるのか

私たちが何に性的な魅力を感じるかという問題は、単なる生物学的な常識だけでは説明できません。

異性愛が一般的とは言っても、多くの人はそれ以外の「モノ」や「シチュエーション」に対して性的な興奮を覚えます。

奇妙に見えたとしても「モノ性愛」も同様であり、そこには心理学的にも神経的にも、いくつかの共通する構造が見えてきます。

まず注目されているのが、学習や条件づけによって形成される性的反応です。

心理学では、特定の刺激と快感が偶然結びつくことで、後にその刺激だけでも性的興奮が生じることがあります。

このような現象は「古典的条件づけ(classical conditioning)」や「オペラント条件づけ(operant conditioning)」と呼ばれ性愛やフェティシズムに関与していると考えられています。

たとえば、思春期に初めて性的興奮を感じたとき、偶然その場に“特定の物”があった、水が飛び散る光景を見たなどを経験したとします。

するとそのときの快感が「モノ」や「吹き出す動き」という視覚的刺激と重なって学習され、その後も同じような場面に遭遇したときに性的反応が呼び起こされるようになります。

またこの経験から、その後性的行動(自慰や空想)の際に同じ物を利用すると、性的快感と結びつく刺激として強化されていきます。

このようにして、「モノ」や「動きそのもの」に性的魅力が結びつくのです。

これは「制服」や「体操服」に興奮するという人も同じ理屈です。フェティシズムに関する意見が割れやすいのも、世代によって思春期によく目にするモノが異なるためだと考えられます。

つまり、オブジェクト・セクシュアリティは単なる嗜好ではなく、脳が快感を学習する過程で生じる“条件づけ”の一形態と考えることもできるのです。

これはフェティシズムの説明としてはよく聞く原理ですが、もちろんこれだけで全てが説明されるわけではありません。特に人間の存在は逆に性的興奮の邪魔になるというオブジェクト・セクシュアリティの場合は、単なる条件付けだけでは説明が難しいかもしれません。

無機物に心を投影する心理

さらに心理学的には、オブジェクト・セクシュアリティには投影と象徴化の構造が見られます。

人はしばしば、自分の感情や願望を外界の対象に投影します。

無機物や物理的現象に「意志」や「感情」を見いだすのは、人間の心理が本来持つ自然な働きでもあります。

しかしオブジェクト・セクシュアルの人々では、その投影が非常に強く、対象に“人格”や“関係性”を感じ取るまでに至ります。

これは、対人関係でのストレスや拒絶体験を避けるための、補償的な心理構造として働く場合もあります。

他者を介さずに完結する愛の形は、傷つけられる心配のない“安心できる関係”として、彼らに安定感を与えるのです。

つまり、「モノを愛する」ことは、単に性的倒錯ではなく、対人関係の代替的な安全地帯(safe attachment)であるとも言えるのです。

脳のつながりが生む“快感の錯覚”

神経科学の視点からは、オブジェクト・セクシュアリティは脳の連結性(connectivity)と関係している可能性が指摘されています。

サセックス大学の研究では、オブジェクト・セクシュアルの人々が、感覚処理と情動処理をつなぐ神経ネットワークに独自の活動パターンを持つことを示唆しています。

これは、視覚や触覚で受けた刺激が、通常よりも直接的に情動中枢へ届き、“理屈よりも先に感情が動く”という体験を引き起こします。

その結果、ある形や質感、動きといった単なる感覚刺激が、脳の内部では感情的な意味をもったものとして処理され、これが繰り返されることで、水が吹き出す、金属が光る、振動が伝わるといった現象が、本人にとっては深く心を揺さぶる官能的な体験として認識されやすくなると考えられるのです。

配信元: ナゾロジー

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