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「定年後に農業」は幻想だった──元外務省・佐藤優が語る“60代からの理想的な働き方”

「定年後に農業」は幻想だった──元外務省・佐藤優が語る“60代からの理想的な働き方”

「選択と集中」で人間関係を再構築

そんな定年後の人たちの、仕事における人間関係についてはどうか?

人脈は広ければ広いに越したことはない──それはビジネスパーソンとして現役だったときの「法則」。しかし定年後に、この法則は当てはまらない。

定年後は、それまでに広げた人脈の「選択と集中」がテーマになる。人脈をある程度まで絞り込み、「これは」という人とだけ関係を深めていく。それには、深く付き合っていきたい人の基準を自分のなかで明確にしておく必要がある。

私の場合、40代にして、いわゆる「鈴木宗男事件」に連座して拘置所に入ったことがきっかけで、人間関係が大きく変わった。それまで親しかった人たちのほとんどが離れていったが、もちろん残った人もいた。

これによって、図らずも、人脈が絞り込まれることになった。結果的に、深く付き合っていく人の選択ができたことにもなる。

さらに人間関係においては、外務省という組織を離れて作家になると、付き合いたくない人からは逃げることが可能になった。もちろん、極端に人を選ぶと仕事が来なくなるが、心の底から嫌いだ、という人からは逃げられる。結果、さらに人脈の「選択と集中」が実現できた。

定年前であれば、ビジネスパーソンは、嫌な人とも付き合っていかなければならなかった。嫌いな上司、生意気な同僚、根気のない部下……こんな人間関係でも、無下に遮断することはできなかった。

しかし、定年後の仕事では、まったく状況が違う。

定年後の人たちが携わる仕事では、組織人になったとしても、ストレスの限界だと感じるようなことがあれば、迷わず離脱すべきだろう。自分の隙間時間を社会に還元し、ちょっとした収入を得るのが目的の仕事なのだから、すぐに判断を下すべきなのだ。

日本に住む定年後の人たちは、メンタルと体が元気であれば、非常に選択肢の多い老後を送れる。ゆえに定年後の仕事に執着する必要もない。

「仕事が楽しみなら人生は楽園だ。仕事が義務ならば人生は地獄だ」

これは『どん底』を書いたロシアの作家、マクシム・ゴーリキーの言葉だ。特に定年後の仕事は、楽しくなかったら、すぐに辞めるべきだ。

定年後に農業を始めるのは無理

近年、「定年退職したら田舎で農業をしながら自給自足に近い生活を送りたい」、そう考える人が多くなった。移住ブームもある。

都会生活を捨てて田舎暮らしをするのも一つの選択だが、それをつつがなく実践できるのは、おそらく体が丈夫な50代までだろう。定年後の人たちには、断言しよう、無理だ。

まず、60代から田舎暮らしをするとしたら、自分の地元に行くか、あるいは既に知己がいる場所など、何かしらの土地勘や人間関係がないと厳しい。

というのも、都市の生活に慣れ親しんだ人にとって、地方には、思いのほか閉鎖的な雰囲気が感じられるからだ。その結果、住み始めてからのちにコミュニティから弾き出されたりしてしまうと、都会に逆戻りすることになりかねない。

農業についても、既に経験があるなら別だが、定年後にイチからスタートさせるには無理がある。少なくとも30代から準備していく必要があるだろう。

いずれにせよ、60代からの田舎暮らしに関しては慎重にすべき、それが私の確信である。

文/佐藤優

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