抱いていたイメージと寸分違わない人物像。そんな芸能人に会ったことがある。
今や大御所俳優となった柄本明にインタビューしたのは、今から20年前のこと。場所は東京・下北沢。柄本の地元だった。
待ち合わせ場所の喫茶店に入ろうとすると、向こう側から自転車、いわゆるママチャリに乗った、ラフな服装の中年男性が近づいてきた。それが柄本だった。
知的でサブカルっぽい俳優だとのイメージを持っていたが、なるほど、と思わせる登場の仕方だった。
取材のテーマは「絶望」。非常に重いテーマだったが、
「ボクは絶望した若者が好きなんだ。希望に満ちあふれた若者を見ると、虫唾が走る」
などとシニカルに語り、ニタリと笑った。こんなに重いテーマを面白おかしく語れるのには感心したものだ。
取材後の雑談では、自身の生い立ちなどを話してくれた。東京・銀座の歌舞伎座の裏で育ち、幼少期は各地を転々。東京・杉並区で幼稚園時代を過ごしたことなどを明かした。余談だが、その幼稚園は筆者の子供が通っていた園で、大いに盛り上がった記憶がある。
この取材では謝礼が出ることになっていたが、柄本は領収書にサインをし、謝礼を無造作にポケットに入れて、再び自転車に乗って帰っていった。いろいろな芸能人のインタビューをしたが、これほどピタリとイメージ通りの人は初めてだった。
ちなみにこの数カ月後、やはり同じ下北沢の喫茶店で、柄本の妻で女優の角替和江にもインタビューしており、そういう意味でも、筆者にとって思い出深いのである。
(升田幸一)

