レッドブルの角田裕毅は、F1アメリカGPでF1スプリント7位、決勝7位と、合計8ポイントを獲得した。予選こそ下位に沈んだものの、そこから挽回しての入賞、しかもここまで苦しんでいたところからしっかり結果に繋げたという部分は、大いに評価されるところだろう。
しかしチームメイトのマックス・フェルスタッペンは、いずれのレースも優勝。大逆転でのチャンピオン獲得の可能性を、グッと手繰り寄せた。角田はそのフェルスタッペンの成績からすれば、まだまだ大きな差があると言わざるを得ないだろう。
たしかに角田は、ポイントを獲得したことでチームのコンストラクターズ争いを後押しすることになった。しかしフェルスタッペンのタイトル争いには貢献できなかった。貢献するならば、角田はフェルスタッペンとマクラーレン勢の間に割って入り、ランド・ノリスおよびオスカー・ピアストリから1ポイントでも奪い取らなければならないわけだ。
実際アメリカGP終了後、ある記者からレッドブルのローレン・メキーズ代表に、次のような質問が飛んだ。
「ドライバーズチャンピオンシップは、常にマックスひとりの戦いだ。ユウキは彼を助けることはできないのだろうか?」
メキーズ代表は様々な観点から、角田が調子を上げれば上げるほど、フェルスタッペンの助けになると語った。その中のひとつがこういう回答であった。
「バトル、戦略の観点から言えば、ユウキが調子を上げてくれれば、いずれ2対2の争いになる可能性がある」
今回のレースでは、メキーズ代表の言うような2対2の戦いに持ち込むことはできなかった。しかし、ある一面では角田の現在の立場で、マクラーレン勢を少しだけ困惑させることができたかもしれない。
■鍵となった20秒
このグラフは、F1アメリカGPの決勝レース中の、ノリスとの各車の差の推移を折れ線で示したものである。
今回のレース、フェルスタッペンは首位を独走。それに続く位置を走ったのが、フェラーリのシャルル・ルクレールと、ノリスであった。レッドブル陣営としては、フェルスタッペンが逆転タイトルを目指すためには、2位になるのはノリスではなく、ルクレールの方が良い……そのための動きを、今回の角田は果たしていたように見える。
このルクレールとノリスは、戦略が異なっていた。ルクレールはソフトタイヤを履いてスタートしたため、最初のスティントが短くなるのは明白であった。一方でノリスはミディアムタイヤを履いてのスタート。最初のピットストップのタイミングは、当然のごとくルクレールよりも後になる。
ルクレールは3番グリッドからスタートし、ソフトタイヤの利点を活かして2番グリッドからスタートしたノリスの前に立った。そしてレース前半は、2番手のポジションを維持した。
しかしソフトタイヤは徐々にデグラデーション(性能劣化)が進行。ノリスが2番手に浮上することになった。ルクレールはこの後にピットインし、ミディアムタイヤへと履き替えた。新品のミディアムタイヤに履き替えたルクレールのペースは良く、徐々にノリスとの差を埋めていった。
今回のレースでは、ピットストップを行なうことでのロスタイムは、20秒と少しであった。そのためノリスとしては、本来ならばルクレールの前でコースに復帰できるタイミングでピットストップしたいところだ。
ルクレールのピットストップの数周後にノリスもピットストップしたならば、ノリスはルクレールの前でコースに復帰することができたはず。しかしそうはできない理由がいくつかあった。
ひとつは残りの周回数である。当時はまだ半分以上の周回数が残っていたため、ミディアムタイヤを履いていたノリスとしては、ソフトタイヤに履き替えるのはリスクが高すぎた。ただこれに関しては、ハードタイヤを履くという選択肢もあったはずだ。
もうひとつの理由は、角田の存在だ。角田はこの時、ノリスの20秒以内のところを走っていた(グラフ赤丸の部分)。いくら新しいタイヤであったとしても、ペースがミディアムよりも1周あたり1.5秒も遅いとされるハードタイヤを履いては、おいそれとは抜けないかもしれない……角田がここにいたことで、マクラーレン勢はその選択を躊躇した可能性はないだろうか?
そうこうしているうちに、ルクレールが角田に迫り、オーバーテイク。そしてノリスの後方20秒以内に迫った(グラフ青丸の部分)。つまり20秒という”障壁”は、角田からルクレールへとバトンタッチされたわけだ。そしてルクレールに先行を許した直後、角田はピットインしている。
結局ノリスは、ソフトタイヤでも残りを走り切れるだろうという32周目にピットイン。しかしルクレールの後方という位置になった。
ノリスはなかなかルクレールを抜くことができず、レッドブルの目論見……つまりフェルスタッペンとマクラーレン勢の間に1台でも多くのマシンを置くという策略は成功しそうに見えた。しかしレース最終盤、ルクレールのペースはガクリと落ち、ノリスがオーバーテイクを完了させた。
レッドブルとしては望んでいたような状況にはならなかったが、それでも角田があのポジションを走っていたことで、ノリスを苦しめる一端とはなったはずだ。
しかし当然、角田としてはこの結果で満足するわけにはいかない。フェルスタッペンとマクラーレン勢の間にいるのは他車ではなく、本来ならば自分であるべきなのだ。そうすれば、フェルスタッペンの逆転チャンピオン獲得の可能性は、さらに高まる。
メキーズ代表は次のように語っている。
「我々はこれで十分だと言うつもりはない。誰もそうは思っていないし、ユウキだってそうは思っていない」
「彼はこの2レースでいい走りをした。これまでと比べても進歩している。しかしそれで十分かといえばノーだ。もし私が『これで十分だ』と言ったら、嘘になる。しかもそう言ったら、ユウキだって喜ばないだろう」

