有明コロシアムは、19歳のビクトリア・エムボコにとって、心地よい思い出の宿る地だ。
今年4月。日本で開催された女子国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ」に、彼女はカナダ代表として参戦していた。チームは日本に敗れはしたが、彼女自身はシングルス2戦連勝。代表初選出ながら、エースとしての大役を見事に果たした。
「この素晴らしいスタジアムでプレーしたのは、良い経験でした」と、半年前を振り返り、女子テニス界注目の新鋭が笑う。
「国別対抗戦ということもあって、客席からの大声援が聞こえるなかで試合するのは、特別な経験だったと思います。もちろん今回は通常のトーナメントなので、状況は大きく違ってくるでしょう。でもすごく良いプレーをした記憶は残っているので、それを今回も続けられたらと思います」
10月20日に開幕した、「東レ パン パシフィック オープンテニス 2025」(東京・有明/WTA500)。今年40周年を迎えるこの伝統のWTAツアー大会に、エムボコは世界24位、第8シードとして初参戦している。
そのシングルスドロー(組合せ)が最初に公開された時、彼女の初戦での対戦相手は、同じカナダのレイラ・フェルナンデス(同22位)だった。ただその後、欠場者が出たためドローは組み替えられる。結果、彼女が1回戦で相対するのは...、またもやカナダの、ビアンカ・アンドレスク(同172位)だった。
「最初にレイラに決まった時は、『えー!どんな確率よ!?』とびっくり。カナダ人というのもあるけれど、それ以上にレイラのことは大好きだし、彼女は最近すごく良いプレーをしている(※先週大阪市で開催されたジャパンオープンのシングルス優勝)。『友だちと1回戦で当たるなんて、最悪』って思っていました。
そうしたら、ドローを組み替えることになったので、『良かった、これでレイラと試合しなくてすむ』ってホッとしたんです。そうしたら今度は、私の名前の横にビアンカの名前があるんだもの!その時の私は『オッケー。どうやら、このグループの誰かとは当たらなきゃいけないのね』って。
とても、ワクワクする試合になると思います。私はビアンカのことも大好きだし、すごく尊敬している選手でもあります。しかも彼女は、今大会ではダブルスパートナーでもあるんです。でも今は、単なる一つの対戦としてとらえるようにしている。きっと良い試合になると思います」
組み替えても宿命のように訪れる盟友との対戦は、彼女にとって趣深いものだろう。なぜならカナダという国は、彼女のキャリアにおいて大きな意味を持つからだ。
10代前半のエムボコは、米国のIMGアカデミーを拠点としていた。だが2020年の新型コロナウイルス感染拡大を機に、母国カナダへと戻る。そこでテニス・カナダ(協会)のサポートを得、元世界3位のナタリー・トージア(フランス/58歳)の指導も受けられたことが、一つの転機となった。
「ナタリーはテニス・カナダのパートタイムコーチとしてのキャリアが長く、ビアンカや他のジュニア選手たちの遠征にも良く同行していました。だから今年、再びナタリーがコーチとして私に付いてくれた時には、とても安心して心地よく感じたんです。
大会中でも、心穏やかでいられる。選手にとっては、それこそが重要なんです。自分のことを信じてくれる人がそばにいてくれるだけで、良いプレーができる。彼女は私の良い面を、たくさん引き出してくれたと思います」
心から信頼できるコーチの下で、大躍進を果たした今年のエムボコ。そのハイライトは何といっても、地元カナダ開催のWTA1000大会「ナショナルバンク・オープン」(7月27日~8月7日)優勝。その決勝で大逆転勝利をつかみ取った相手は、大坂なおみだった。
「ナオミはツアーの中でも、最も強烈にボールを打つ選手として知られているし、実際に対戦した時には、そのことを実感しました。あの試合では、多くの局面で苦しんだことを覚えています。そしてその度に、『とにかく踏ん張れ!1球でも多くのボールを打ち返し、なんとか道をこじ開けよう』と自分に言い聞かせたことも覚えています。
ナオミはずっと良いプレーをしていましたが、一瞬、私に流れが傾いた。そして幸運なことに私は、その時間帯を継続し、最後まで到達することができたんです」
その優勝により、彼女のランキングは一気に85位から24位へと急上昇。ただその後は、4大会連続初戦敗退と、やや苦しい時期が続いている。その中で迎えたのが、今回の「東レPPOテニス2025」だ。
冒頭で触れた通り、有明コロシアムでの彼女は負け知らず。
恐れを知らず、縦横無尽にコートを駆けたあの時の感覚を、果たして彼女は取り戻せるか?
注目の一回戦は、10月21日の正午頃に開戦する。
取材・文●内田暁
【画像】「東レ パン パシフィック オープンテニス 2025」が開幕!有明を舞台に熱戦を繰り広げる選手たち/大会1日目
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