「これからアウト側で(オーバーテイクを)仕掛ける時は、思い切って行くしかないんじゃないかな?」
そう語ったのはハースF1のオリバー・ベアマン。前戦イタリアGPでウイリアムズのカルロス・サインツJr.と接触し、ペナルティにより1レース出場停止処分の危機に立たされているが、謝罪よりもむしろ好戦的な姿勢を見せた。
ベアマンはイタリアGP決勝の41周目、ロッジア・シケインでアウト側から仕掛けてきたサインツJr.と接触。十分なスペースを与えなかったとして、ベアマンに10秒のタイムペナルティと、ペナルティポイント2点が科され累積10点となった。
FIAスーパーライセンスのペナルティポイントシステムは累積12点で1レース出場停止処分が下される。つまり、ベアマンは残り2点で出場停止となる。そうなった場合ハースは代役のドライバーを立てる必要があり、おそらくリザーブドライバーの平川亮が穴を埋めることになるだろう。
ベアマンが窮地に立たされる一方で、交戦ルールに関しては状況がやや複雑化している現状にある。オランダGPではサインツJr.がレーシングブルズのリアム・ローソンとのバトル中に接触し、サインツJr.が当初ペナルティを受けた。しかしウイリアムズは再審査権を行使し、FIAがサインツJr.に科されたペナルティポイント2点を撤回し、この件を“レーシングインシデント”と認めた。
このインシデントでは、サインツJr.がアウト側からローソンにオーバーテイクを仕掛けていたが、スチュワードは最終的にローソンが「一瞬(マシン)コントロールを失った」ことが接触の原因だと説明していた。
核心的な疑問であり今なお議論を呼んでいるのは、ドライバーが「フェアバトルの範囲」だと主張できるタイミングだ。サインツJr.とローソンのインシデントでは、FIAがペナルティを取り消したにも関わらず、サインツJr.が当該の位置にいるべきではなかったと主張したことで、ややこしい状況となった。
「55号車(サインツJr.)は、30号車(ローソン)の外側を接近して走るというリスクを取ったことでインシデントの一因となった。55号車にはその位置にいる権利がなかった」とスチュワードは声明で説明した。
「実際に接触した地点以外でインシデントが発生していた場合、55号車は(コーナー)出口でコースアウトするか、あるいは出口で接触が発生していた可能性が現実的に存在した。その場合、55号車のドライバーが主たる、あるいは全責任を負っていた可能性が高い」
つまりペナルティの軽減要因はローソンの急激なオーバーステアであり、ドライバーが遵守すべき“レーシングガイドライン”の解釈違いではなかったということ。判断基準がコーナーのエイペックスでどちらが前にいるかどうかだけではないという前例ができたため、再審査の結果は現在のF1スポーティングレギュレーションに対する不満を解決するどころか、さらに増幅させる結果となった。
「ルールに賛成か反対かに関わらず、ペナルティを受けたのは僕の責任だ」
ベアマンはアゼルバイジャンGPのメディアデーでそう語った。
「だけどこれは受け入れがたい。僕らが育ってきたレースのやり方とは全く異なる」
「ルールはルールだ。ひとりのレーシングドライバーとしても、ひとりのファンとしても、あのペナルティは受け入れがたい。僕の方は、決してコントロールを失っていなかったからね。別のドライバーとコーナーに向かってレースをしていただけなのに、僕が全くスペースを与えなかったと判断された。結局、それがルールで定められた内容だ。だから少し理不尽に感じている」
あらゆる状況を想定した効果的なレーシングガイドラインを作成することは不可能であり、いずれにせよグレーゾーンは残るものだ。ギリギリのグリップでコーナーに進入する瞬間、ドライバーが頭の中で“もしも”のシナリオに関するルールブックのページをめくり、処理する精神的な余裕は存在しない。
「コーナー進入時にライバルと横並びとなる状況を想像してほしい。『よし、このコーナーを争うぞ』と決断する瞬間だ」とベアマンは語った。
「(イタリアGPの)状況では、彼(サインツJr.)が若干速かったけど、1周ごとに1秒差を詰めてくるような状況ではなかった」
「あのコーナーで先行できていれば、レース終了まで前をキープできていたはずだ。だから、あのポジション争いには全力で挑むつもりだった」
「ブレーキを踏んだ瞬間にライバルとの速度差を見て、1月に送られてきた3ページのガイドラインを考える余裕なんてない。無理な話だ」
「だから自分が知っているやり方、育ってきた通りにコーナーへ進入していく。僕の場合は、もう少しスペースがあると思っていたけど、そういう結果になった」
ペナルティポイントはそれぞれの有効期間1年で累積制。ベアマンとしては昨年のサンパウロGPで獲得した1ポイントが消滅する、4戦後まではクリーンな走りを維持しなければならない。モナコGPやイギリスGPでもペナルティポイントが科されていることから、その後は次のポイント失効まで長い待ち時間となる。
従ってベアマンはバトルのアプローチを変えていく必要がある。
「イン側でスペースをもらえることを望んでいるけど、明らかにそれが叶わない可能性もある。だからそのリスクは取れない」とベアマンは言う。
「残念だ。これからはアウト側から回るしかないね」

