子どもたちの意識改革で「未来につながる健康・幸せ」

――短命の連鎖を断ち切るために
青森県は長年、「日本一の短命県」として知られてきた。
その背景には、高血圧や糖尿病などの生活習慣病リスクだけでなく、地域の食文化や運動習慣の不足も指摘されている。
実際に青森県の子どもは肥満傾向が高く、運動習慣が低いというデータもある。
青森県の「短命県」は子供の頃にすでに悪い生活習慣など原因となる状況が形成される可能性がある。
村下先生は、そうした状況に強い危機感を抱いている。
「子どもたちの体力や健康意識の低下を見ていると、なんとしても改善していきたい。だからこそ、“気づき”をもっと早く届けたい」と語る。
こうした思いから、弘前大学COI-NEXTでは現在、子ども向けの健診プログラム(子供版QOL健診)が開発にも取り組んでいる。
子どもたち向けの健診は、従来の「岩木健康増進プロジェクト」で培われたノウハウをもとに、子どもたちが“楽しく、わかりやすく、自分の身体(健康)を知る”ことができる健診をめざした取り組みにしている。
子ども期の健康課題は、将来の生活習慣病リスクや社会参加への不安定さを生み、ひいては地域の生産力や活力にも影響を与えかねない。
だからこそ今、「大人になる前に気づき、変わる、行動につなげる」仕組みが必要とされている。
この新しい健診の目的は、病気の発見ではなく「気づきの早期化」。
子どもたちが自らの変化やリスクに“気づき”、そして“変わろうとする力”を育む仕掛けだ。
学校や家庭と連携しながら、健康について「知る・考える・選ぶ力」を育てる取り組みも進んでいる。
自分の身体と心に関心を持ち、行動できる子どもたちを育てることが、青森の未来に健やかな“幸せ(Well-being)”を根づかせる第一歩といえるだろう。
“健康ビッグデータ”が変える未来社会

――地域発の行動変容モデルを全国へ
青森県弘前市で20年以上にわたり継続されてきた「岩木健康増進プロジェクト」。
毎年約1,000人、延べ3万人に及ぶ住民から得た約20年分の健康データは、今や“地域の財産”とも呼ばれるビッグデータ資源となっている。
日々の生活習慣、体力、肌状態、食事、睡眠、ストレスなど、約3,000項目に及ぶ網羅的データを毎年継続的に記録・解析。
この長期縦断データがあるからこそ、「どんな人が、どんな生活をしていると、どう健康が変わるのか?」がリアルに見えてくる。
データ×企業コラボ=社会実装へ
この“生きたデータ”は、企業との共創にも生かされている。たとえば、カゴメが開発した「ベジチェック」。
このベジチェックは、地元スーパーなどにも導入されていて無料で手軽に野菜摂取レベルを数字として可視化できるツール。
手のひらをセンサーにかざすだけで測定でき、1分程度で結果が出るのが魅力。
買い物の間に手軽にチェックできるので、食生活の見直しを通した健康意識の向上に一役買っている。
ほかに花王が開発した「NAIBO-eye」は、スマートフォンで受診者を正面および側面の2カットを撮影するのみで、かなりの精度で内臓脂肪量を推定することができる。
服を着たままで簡単に測定できることから、好評を得ている。
弘前モデルが拓く「予防医療」の新しいかたち
この地域発のアプローチは、ただの健診では終わらない。“データで気づき、行動し、変わる”というサイクルが回る仕組みは、他地域にも応用可能といえるだろう。
弘前モデルは、全国そして世界へと広がる「行動変容のエビデンスモデル」として、予防医療の未来を形づくる足掛かりになるはずだ。
