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ギレルモ・デル・トロ監督が語る すべての道はこの作品へ通じていた『フランケンシュタイン』

ギレルモ・デル・トロ監督が語る すべての道はこの作品へ通じていた『フランケンシュタイン』

天才科学者のヴィクター・フランケンシュタイン博士(オスカー・アイザック)は、“科学の力で不死の生命を生み出す”という傲慢な欲望を持ち、数々の死体の肉と骨をつなぎ合わせ、ついに“怪物”(ジェイコブ・エロルディ)を誕生させる。最初こそ怪物の完成に興奮していたヴィクターだったが、いつまでたっても求めていた知能に達さず、怪力だけを発揮する姿におぞましさを感じていく。そして、とある事件により博士は怪物の元を離れていくが、怪物は孤独を彷徨いながら創造主であるヴィクターからの愛を求め彼を捜そうとする。

小説家メアリー・シェリーの名著で、今もなお多くの創作物に強く影響を与え続けている怪作「フランケンシュタイン」。過去幾度もクリエイターたちを魅了してきたこの作品が、この度、オスカー監督ギレルモ・デル・トロによって、再び甦る。

予告編制作会社バカ・ザ・バッカ代表の池ノ辺直子が映画大好きな業界の人たちと語り合う『映画は愛よ!』、今回は、Netflix映画『フランケンシュタイン』のギレルモ・デル・トロ監督に、本作品や映画への思いなどを伺いました。

これまでのすべては「フランケンシュタイン」に向かう道

池ノ辺 いよいよデル・トロ監督の『フランケンシュタイン』が10月24日に劇場で先行上映、11月7日からNetflixで配信が開始されます。監督は子どもの頃から、『フランケンシュタイン』(1931) が大好きだったんですよね。「フランケンシュタイン」はこれまで数多く映画化されていますが、監督のお気に入りの作品は何ですか。

デル・トロ たくさんあります。まず、ユニバーサルピクチャーズのフランケンシュタインの3作、『フランケンシュタイン』(1931)、『フランケンシュタインの花嫁』(1935)、『フランケンシュタインの復活』(1939) は大好きでした。あとは、テレンス・フィッシャー監督の『フランケンシュタインの逆襲』(1957) やアメリカのテレビ映画『真説フランケンシュタイン』(1973) もよかった。アンディ・ウォーホルとポール・モリセイ監督の『悪魔のはらわた』(1973) も、ウド・キア演じるフランケンシュタイン男爵がファンタスティックでした。『フランケンシュタインの復活』をベースにした、メル・ブルックス監督の『ヤング・フランケンシュタイン』(1974) も面白かったです。そして忘れてはいけないのが、本多猪四郎監督の『フランケンシュタイン対地底怪獣(バラゴン)』(1965) 。あの子どものような怪物が好きでしたね。自分は、比較するということはなくて、どれも好きだと思っています。

池ノ辺 それらの作品があった上での、今作なわけですね。

デル・トロ すでにあるものを脚色するというのは、未亡人と結婚するようなものです。もちろん元の旦那さんへの敬意は忘れちゃいけない。でも週末にはパーティーなどを開いたりして楽しませて、今、自分と結婚した意味というものを示さなければならないんです。つまり原作を踏まえつつも自分のものとして、そこに自分がやることの意味を表さなければいけないわけです。

池ノ辺 監督がこの作品を作り上げるにあたり、どういう思いがあったんでしょうか。

デル・トロ 私にとって、これまでの自分の作品というのは、すべて今回の『フランケンシュタイン』へ通じる、そのための道であったと言っても過言ではないと思っています。それほど『フランケンシュタイン』は私にとっての北極星、目指すべき目標なんです。美術、プロダクションデザイン、衣装、メイク、そして撮影に至るまで、この映画というテーブルを支えるための脚だと考えていて、そういう中で作り上げたのが、『フランケンシュタイン』なんです。

「新しい人間」としての怪物の誕生

池ノ辺 この作品に出てくるフランケンシュタインの怪物は、これまでのイメージとずいぶん違いました。

デル・トロ 今までの怪物は、ひどい交通事故にあったかのような状態でしたよね。出血していたり縫合の痕が生々しく見えていたり。でも今回私は、そういうイメージではなく、「新しい人間」というイメージで考えました。それはまだ母親のお腹の中にいる胎児のような、半透明の、あるいは生まれたばかりの色味の薄い存在です。しかもヴィクターはアーティストとしてのセンスもあるので、ああいう縫合線をたくさん残したものではなくて、もっと美しい存在をつくろうとするだろうということも考えてメイクやデザインを作り上げていきました。

池ノ辺 怪物を演じるジェイコブ・エロルディは本当に素晴らしく、特に目が印象的でした。

デル・トロ 最初、この役はアンドリュー・ガーフィールドが務める予定だったんです。ところが、ストライキが重なったりしてスケジュールが合わなくなり、撮影に入る9週間前に降板することになりました。それで急遽選び直したわけですが、実は私は役者を選ぶときには必ず目で選ぶんです。それはジェイコブだけでなく、オスカー・アイザックもミア・ゴスもそうです。そして、ジェイコブと話をしているときに、彼のお父さんが、スペインバスク地方のバスク人であり、カトリック教徒であることを聞いたんです。その背景があれば、この物語について、この物語の世界観、宇宙観をわかってくれるだろうと思いました。実際ジェイコブは、このキャラクターについて、「僕以上に僕自身だ。本当に自分が心の中で感じていることだ」と言っているので、選んだのは間違っていなかったと思います。

池ノ辺 怪物を演じるにあたっては、監督は彼にどんなことを伝えたんですか。

デル・トロ まずは「無」の境地にあることを求めました。禅のようですね。そしてそのために犬の様子をよく観察するように言ったんです。犬というのは、ある瞬間にはすごく幸せそうにしているのに、次の瞬間には闘いのモードになり、すぐにまたハッピーになったりしていますよね。それを見てほしいと思いました。また、怪物が死から甦って再び生まれるときの動きについては、日本のいわゆる「舞踏」が参考になるだろう、そういう話もしました。

池ノ辺 具体的でありながら、難しい要求でもありますね。

デル・トロ 怪物が生まれたばかりの赤ん坊の状態であるというのはどういうことか、それもずいぶん話しました。つまり生まれたての赤ん坊というのは、周りのすべてが自分にとって新しい、未知のものです。そして最初はふたつの言葉、つまり「ママ」と「パパ」だけで世界が成り立っている。この怪物にとってはそれが「ヴィクター」なんです。「ヴィクター」が彼にとってのすべてで、昼も夜も、寒いも暑いも良いも悪いも、すべて「ヴィクター」で表現されるのです。そういう何もない状態から段々と大人の男性へと成長していくのだと、撮影に入る前に、ジェイコブとはそんな話をずいぶんしたんです。実際撮影に現れた彼は、すでに完璧な状態でした。

配信元: otocoto

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