10月23日から、JR西日本とHRC(ホンダ・レーシング)、京都鉄道博物館が連携したイベント「レーシング&レールウェイ ヒストリー」が京都鉄道博物館で開催される。
鉄道車両とF1マシンという異例のコラボレーション。鉄道ファンも、そしてF1ファンも、大いに注目のイベントだ。
さてこのイベントのきっかけとなったのは、0系新幹線電車とホンダRA271であるように見える。いずれも1964年に誕生した、日本を代表する乗り物同士……しかも新幹線の初代車両と、ホンダF1の初代車両であるから、それも当然のことあろう。
ただ京都鉄道博物館の本イベントの担当者、北野高宏氏によれば、実はきっかけとなった別の車両はあるという。
曰く、500系新幹線電車である。
鉄道にお詳しい諸兄には必要ないかもしれないが、500系新幹線電車について少し説明しよう。
この車両はJR西日本が1997年に登場させた車両。ノーズを伸ばしたこと、前面投影面積を減らしたことにより、山陽新幹線区間で300km/hでの営業運転を可能とした車両だ。当初はのぞみ号などに充当され、東京〜博多間で活躍。東海道新幹線区間での運転は2010年で終了し、現在は編成を短くして山陽新幹線のみで走っている。エヴァンゲリオンやハローキティとのコラボレーション塗装をまとったこともあった。
今では活躍の場が減ってしまったとはいえ、新幹線史上もっとも過激な営業車両と言っても過言ではない。それが、北野氏が“企画の発端”になったと言う理由だ。
500系新幹線とロータス・ホンダ99T、夢の共演
「元々私が思っていたのは、500系とロータス・ホンダ99Tを並べたい。実はそこから、この企画は始まっています」
そう北野氏は言う。イベントのプレスリリースでは、500系と99Tは”アクティブサスペンション搭載車”という繋がりで、並べて展示されると記載されている。
ロータス99Tは、アクティブサスペンションを武器にアイルトン・セナと中嶋悟がドライブ。セナが2勝を挙げた車両だ。鈴鹿サーキットでF1日本GPが初開催された年に走ったマシン、中嶋が日本人として初のフル参戦を果たしたマシンということでも、日本のF1ファンにとっては馴染み深い1台だ。
一方で500系にもアクティブサスペンションが搭載され、横方向の振動を制御している。高速列車としては、世界初の事例である。
しかしこの500系は、アクティブサスペンション搭載という以外にも、F1マシンとの近似値がある。前出の北野氏が説明する。
「プレスリリースでは、アクティブサスペンション繋がりとなっていますが、500系にはそれ以外にもF1マシンに似たところがたくさんあるんです」
「例えば形状そのものです。ノーズが非常に長くて、F1マシンのノーズのようになっています。これは空気抵抗を抑えること、そしてトンネルでの衝撃音を抑制するためのデザインです」
「またパンタグラフには、ホンダさんの子会社のショーワさんと共同開発したダンパーを採用しています。当館に展示されている車両にはパンタグラフが搭載されていないのですが、パンタグラフだけが別の所に展示してあって、そこにSHOWAのロゴが入っています」
SHOWA(現Astemo)はF1用のダンパーも手がけており、RA271をはじめとした初期のホンダF1マシン、MP4/4などのマクラーレン、そしてBARなどでも、SHOWA製ダンパーが使われた。
SHOWAは当時、このパンタグラフ用ダンパーを開発するにあたって、F1で培った技術を活かしたとも言われる。
なおこのパンタグラフの支柱のカバー側面には、複雑な突起が刻まれている。これはフクロウの羽根を参考にしたボルテックスジェネレーターであり、F1との近似値といえよう。F1でも、様々な形状のボルテックスジェネレーターが採用されてきた。
「また車体のボディは、アルミハニカム構造でできています。これは車体全体の構造材としては営業車両で初めて採用されました」
アルミハニカム構造とは、蜂の巣のような六角形を組み合わせた構造体の両側にアルミ板を貼った素材で、軽量ながら優れた強度を誇る部材である。
「これらを考えると、500系の開発者の中には、F1好きが絶対にいたんじゃないかと思います。それくらい、500系とF1は似ているんです」
今回のイベントで、HRC側の窓口を務める田幸陽一氏も、500系とF1マシンの類似性に気づいていたという。
「小学生の頃にF1を見始めて、その数年後に500系がデビューしたと思います。その時にアクティブサスペンションだったり、SHOWAの技術を使ったパンタグラフが、テレビで盛んに報道されていたんですよね。その時の記憶があります」
「すごく親和性を感じますし、レーシーな感じの、トライ&エラーみたいなところを含めて、長い新幹線の歴史の中でも、すごくシンパシーを感じる車両だと思います」
鉄道の魅力に触れ、鉄道で観戦へ
他にも、新幹線とF1マシンが近しい部分は多々ある。例えばボディ形状を決めるためには、風洞実験やCFD(数値流体力学)が、F1でも新幹線でも多用されている。
また近年のF1はハイブリッド車両になったため回生ブレーキ(発電することで車両を減速させ、そこで発電した電気をバッテリーに蓄え、加速の際に活かすブレーキ方式)を使うのは当然である。しかし鉄道車両では回生ブレーキが古くから使われており、新幹線でも1992年に登場した300系から本格的に使われるようになった。在来線車両ならば、そのもっと以前から回生ブレーキが実用化されている。ある意味鉄道/新幹線は、自動車やF1の”先輩”と言ってもいい存在なのである。
こう聞くと、F1ファンの皆さんにおかれましては、新幹線や鉄道車両が実に身近なものに感じられることだろう。
なおF1は全世界的に、公共交通機関で観戦に訪れるファンを増やすよう、働きかけを行なっている。F1は今、環境対策として二酸化炭素排出量を削減しようと様々な施策を行なっているが、中でも最も多くの二酸化炭素を排出しているのが、関係者や観客の移動に伴う交通なのである。
日本GPの開催地である鈴鹿サーキットは、公共交通機関だけでアクセスできる数少ないサーキットではあるが、自家用車で行かれる方も多いというのが実情であろう。しかし今回のイベントで鉄道の魅力を知っていただいたあかつきには、来年の日本GPには鉄道で観戦に行く……というのもまた一興だろう。

