「何位ですか? はい? 優勝ですか? そんなことありますか?」
鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーGT第5戦、GT300クラスのトップチェッカーを受けた7号車CARGUY Ferrari 296 GT3の小林利徠斗は、無線トラブルにより正確な順位を把握していなかった。そのためパルクフェルメに戻ってきた際に芳賀美里監督から優勝したことを初めて伝えられ、上記のコメントを発したのだ。
その声色からは、少なくとも優勝という結果に驚いていたことは感じ取れるが、それでもトーンはほぼ一定。国内トップカテゴリー初優勝を達成した20歳の若手とは思えぬ冷静な姿は、SNSでも話題となった。
小林はザック・オサリバンからバトンを受け取った自身のスティントでは無線が通じず。ファーストスティントの状況から「上位ではあるだろうな」とは理解していたものの、前を走る60号車Syntium LMcorsa LC500 GTとトップ争いを繰り広げているとは思っていなかったという。最終的には回頭性の良いフェラーリの強みを活かしながらスプーンでオーバーテイクを決め、勝利を手繰り寄せた。
チェッカーを受けた時のことについて、「(ピットウォールでチームが)喜んでいる感じはしたのですが、サインガードには特にポジションとか書かれていなかったので、分からなかったですね。
『表彰台乗ったのかな』とは思いました」と振り返る小林。それにしても彼は感情を表に出さないイメージがあるが、それは喜びを表現するのが得意ではないからなのか? それとも根本的に浮かれるタイプではないのか?
「(優勝で)あまり極端に高揚することはないですね」と小林は言う。
「もしこれが年に1回の大会で、これに勝ったら大会全体の優勝……というのであれば、それなりに喜べるのだと思いますが、僕は8戦あるシリーズの内の1戦として見ていますし、そう見た方が後に繋がるんじゃないかと思って挑んでいます」
「もちろん嬉しかったのですが、次はすぐにSUGOでレースがあるし、オートポリス、もてぎとまだまだ続きますから。『とりあえず良かったな』という感じでした」
では、レースキャリアで最も嬉しかった瞬間はいつだったのか?
「難しいですね。本当にただひたすら喜べるほど嬉しかったというのは……そこまでないですね」
「レースとして内容が良かったとしても、どうしても次のことを考えてしまいます。例えばFIA F4でシリーズチャンピオンになった時も、もちろん嬉しかったのですが、その先にはスーパーフォーミュラ・ライツやスーパーフォーミュラ、箱車であればスーパーGTもありますから、嬉しいけど『まだ先はあるしな……ほどほどにしとこうかな』という考えになってしまいます(苦笑)。あくまで僕個人の考え方ですけどね」
鈴鹿での勝利でトップと19.5ポイント差のランキング5番手に浮上した小林/オサリバン組だが、上記のコメントからも見て取れるように小林は一切浮き足立っていない。今季残り3レースに向けては、余計なことは考えずにベストを尽くすだけという考えだ。
「(獲得ポイントの増加によって)ウエイトも積んで、給油リストリクターがついたからには、できることも限られています。1レースずつやれることを尽くすだけかなと思います」
「僕はGTで2年目で、ザックは1年目。チームも発足して1年目です。周りにすごく経験を持ったチームもいる中でどれだけできるかは未知です。そこは考えても分からないことなので、とりあえずやってみるしかないと思っています」

