坪井翔は、スーパーフォーミュラ第9戦・第10戦富士とスーパーGT第7戦オートポリスの合間の数日間でイギリスに飛び、シルバーストン・サーキットでハースF1のTPC(旧車テスト)に参加した。ウエットコンディションでのテストとなったが、本人にとってもポジティブな1日になったという。
2024年のスーパーフォーミュラ・スーパーGTのチャンピオンであり、トヨタの中心的ドライバーである坪井は、今年8月に富士スピードウェイで行なわれたハースのTPCでF1マシンを初テスト。17年前に記録されたF1のコースレコードに肉薄するタイムを出し、「このクルマでレースをしたいという気持ちがより一層強くなった」とコメントしていた。
そして彼にとって2度目のテストの舞台となったのは、未経験のシルバーストン。ハースとしても、同チームと提携するTOYOTA GAZOO Racingとしても、走り慣れた富士での坪井のパフォーマンスはある意味“期待通り”であり、初めて走るサーキットでこそ真価を問われると認識していた。
迎えたシルバーストンでのTPCは2日間の日程で行なわれたが、坪井は初日のみを担当してスーパーGT参戦のため帰国、2日目はハースのリザーブドライバーである平川亮が担当した。しかしながら、坪井が走った初日のみ、あいにくの雨に見舞われてしまった。
「本当はドライで走って、平川選手と比較してどれだけ走れるのかが(首脳陣が)一番見たかったポイントだったのではないかと思います」と語る坪井。8月の富士テストも、平川が乗った初日と坪井が乗った2日目では気温が大きく異なったため、タイムの直接比較が難しかった。結局今回も、ふたりのパフォーマンスを同じテーブルの上に並べて評価することはできなかった。
坪井本人としても、エキサイティングなハイスピードコーナーの多いシルバーストンをドライコンディションで走れなかったことは残念だと語ったが、それでも自身の走りには一定の満足感があったようだ。
「やっぱりドライで走りたかったというところはありましたが、ウエットでもこんなスピードで曲がれるんだと思いました」
「実際には、インターミディエイトタイヤを使うようなコンディションだったと思いますが、TPC用のタイヤはウエットタイヤしかなく、それも実際のレースで使うものとは別のコンパウンドだと思います。インターで走ればもっと速い次元で曲がれたと思いますが、フルウエットですらこんなスピードで曲がるんだと感じました。そこは自分のイメージとは少し違っていたというか、ちゃんとF1を感じることができました」
「シルバーストンも富士も、やっぱり高速コーナーはめちゃくちゃダウンフォースがあってエアロ(グリップ)が効いていたのですが、低速コーナーだとメカニカル(グリップ)が必要になってきます。高速コーナーと低速コーナーで考え方をしっかり分けないといけないところも一緒だったので、そんなに違和感なく走ることができました」
「初めてのウエット、初めてのサーキットということで、大変な環境ではありましたが、その中でしっかり走れることが僕に求められているスキルだったと思うので、良い経験になりました。(平川と)タイムは全く比較できないとはいえ、メニューの進め方や、最後に向けたビルドアップ、運転の改善の仕方についてはポジティブだったかなと、乗っていて感じました」
「今回はクルマとしては2度目の運転となるので、わりと余裕も出てきました。走りながらコーナーごとにスイッチを変えるということは日本ではあまりやってこなかったので、富士のテストでは大変だったのですが、今回はそういった面でも余裕が出てきて、コーナーごとにバランスをいじれるようになりました」
シルバーストンの中でも、特に1コーナーやコプス(旧1コーナー)などはF1マシンの強烈なダウンフォースを感じられたと話す坪井。そこで臆さずに攻めることができた点もポジティブに捉えている。
「(高速コーナーでは)こんなに踏んでいって大丈夫なのか、何か起きたらすっ飛んでいくんじゃないか、と感じるほどでしたが、そういったコーナーが結構速く走れていたのはすごくポジティブだったかなと思います」
「比較対象がないので難しいですが、過去の雨のレースでのデータなどを少し比較することはできました。その中で高速コーナーは逆に速いくらいでした」
「自分が経験したことのないスピードレンジに入ってくるわけですが、ああいう高速コーナーで“いけるか、いけないか”はすごく大事になってきます。低速コーナーは(その速度域を)日本でも経験しているので、やはり高速コーナーでどれだけプッシュできるかだと思います。それができたことは僕にとっても自信になりました」
今後、坪井がF1でのさらなるチャンスを得られるかは現状不明だが、坪井としてもベンチマーク……つまり平川としっかり比較ができる機会を望んでいる。
「今後どのようなチャンスがもらえるかは、僕にコントロールできる話ではありませんが、少なくとも今回のTPCに関しては自分の仕事をしっかりやりきれたと思っています」
「次のチャンスに向けてやらないといけない準備は理解しているつもりです。もちろん、チャンスをいただけるのであれば乗りたいという気持ちは大きいですし、チャンスをいただいた時にすぐに乗れるような準備をしっかりとしておく必要があると思います」

