多くのトップ選手たちが、直前で出場を取りやめた。一方で、出場選手全体の層は厚い。
現在、東京で開催中のテニス大会「東レパン パシフィックオープン」(東レPPO)。そこで見られるこれらの現象には、今年のWTA(女子テニス協会)ツアーの動向や変更点、そして選手たちの思いが映し出されている。
世界5位のジェシカ・ペグラに6位のジャスミン・パオリーニ、そして16位の大坂なおみ――。今大会直前で出場を取りやめた選手は、合計9名に上った。理由は様々ではあるが、根底にあるのは、今がシーズン終盤だということだ。
1月にスタートした長いWTAツアーシーズンも、来週で一旦の終わりを迎える。その後に控えるのは、年間上位8選手による「WTAファイナルズ」のみだ。
上位選手たちにとって、このツアーファイナル出場は大きな目標であり、シーズン終盤を戦うモチベーションである。それは換言すれば、既にツアーファイナルの出場権を得た選手には、無理して他の大会に出る理由がないということだ。
ペグラとパオリーニはいずれも、直近にツアーファイナル出場を確実にし、その直後に東レPPOの欠場を表明している。逆に今大会最もモチベーションが高いのが、ファイナル出場レース9位につけるエレーナ・ルバキナだろう。今大会でベスト4以上に入れば、彼女は最終戦への切符を手にできるからだ。
なお、大坂なおみの欠場は、先週の「ジャパンオープン」で負ったケガが理由。シーズン終盤のこの時期、大坂に限らずどの選手も満身創痍なのも、また事実だ。
他方で前述したように、今年東京に足を運んだ選手は多く、そのレベルも高い。特に予選出場選手の層の厚さは、昨年と比べると雲泥の差だ。
昨年の同大会は予選にエントリーする選手も少なく、最終的にランキング1000位台の選手たちもワイルドカード(主催者推薦枠)で出ることができたほど。対して今年は、エントリー時に38位のマッカートニー・ケスラーが、本戦ドローのラストイン。
予選のラストインは、140位だったアリナ・チャラエワである。100位台後半の柴原瑛菜や日比野菜緒らは、予選に出るのにもワイルドカードを必要とした。
実はこの傾向は、前週に大阪市で開催された、ジャパンオープンでも見られていた。ジャパンオープンはWTA250という、東レPPO(WTA500)に比べると一段階グレードの低い大会。同じ週には中国・寧波で、WTA500大会も開かれていた。
それでも今年は、多くのランキング2桁選手が大阪を訪れる。トップ100の内島萌夏ですら、ジャパンオープン出場にワイルドカードを要したほどだ。
このような現象が起きた理由として、内島は「中国での大会開催期間が、例年より長かった」ことを挙げた。それは今年から、一部のハイグレード大会の開催期間が、従来の1週間から2週間弱へと延びたことにある。
9月末に北京で開催される「チャイナオープン」(WTA1000)も、その1つ。そのため北京、そして翌週の武漢大会(WTA1000)に出場した選手たちは、3週間中国に滞在することとなった。
加えて今年は、国別対抗戦「ビリージーンキングカップ・ファイナルズ」も深圳で開催。そのため、こちらに出場した選手たちは、ほぼひと月を中国で過ごしたことになる。
また、WTA1000のハイレベルな大会が続いた後なだけに、勝利が期待できるWTA250のジャパンオープンを選ぶ選手たちもいた。現在17位のリンダ・ノスコワも、そのような1人である。それら複合的な要因により、今年は武漢大会後に、来日した選手が多かったようだ。
内島も個人的に、選手仲間から、「今年は大阪と東京に行くのが楽しみ」の声を多く聞いたという。ただいざ出場選手リストが発表されると、「なんで今年は、こんなにカットオフが高いの!?」と言われたとも......。
内島にしても、その思いは同じ。「多くの選手が、日本が好きだ、日本に行きたいと言ってくれるのはうれしいけれど、カットが高くなっちゃうのは困りますね」と、複雑な笑みを浮かべた。
この現象はシングルスだけでなく、ダブルスでも見られた。ジャパンオープンを制したテイラー・タウンゼント/クリスティナ・ムラデノビッチのうち、タウンゼントは現在ダブルス世界ランキング2位。ムラデノビッチにしても、6度のグランドスラム優勝を誇る元世界1位である。
ダブルスでジャパンオープンと東レPPO両方に出場した二宮真琴も、今年のカットオフの高さに肝を冷やした1人。東レPPOは、直前で加藤未唯と組むことになったため出場できたが、当初予定していたペアとでは、出られないところだったという。
やはり二宮も、「多くの選手が、日本に行きたいと言うのを聞いた」と言う。
加藤は「今年1月の時点で、4月のビリージーンキングカップで日本に行くことが決まっていた選手が、『今年は2回も東京に行ける!』とハイテンションで喜んでいた」と証言。「インスタなどを見ても、はしゃいでいる選手が多い」と、東京人気にも言及した。
ツアーラストスパートのこの時期、東レPPOに出場している選手たちは、それぞれの立場に応じて、各々の目的と情熱を胸に日本で戦っている。そのような背景を思いながら試合を見ると、一層、趣きも増すだろう。
取材・文●内田暁
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