2016年にヨーロッパGPとして初開催され、コロナ禍の2020年を除いてF1カレンダーに残ってきたバクーでのレースだが、今週末は未知の要素が多く生じる可能性が高い。
その要因のひとつは、ピレリが昨年より一段階やわらかい組み合わせのタイヤを持ち込むと決定したことにある。この取り組みは今季既に数レースで実施されており、チームが1ストップ戦略に依存するのを防ぎ、戦略的な多様性を生む狙いがある。
今回、ソフトタイヤはピレリが市街地サーキット用に開発したC6コンパウンドとなっている。エミリア・ロマーニャGPで初使用され、その後モナコGPやカナダGPでも使われたが、賛否両論を呼んだタイヤだ。
C6コンパウンドに対する全体的な評価は、従来最も柔らかいコンパウンドだったC5と比べてラップタイム向上効果がほとんど見られない一方で、挙動が全く異なるというものだ。
ドライバーからは、性能のピークに到達しづらい、あるいはピークが過ぎ去るのが早すぎて、プッシュラップが終わる前に急激に性能が低下するという報告があった。複数のチームは、温度が急上昇すると外周部のグリップが不安定になり、ドライバーに奇妙な感覚を与え、自信を損なうようなフィードバックをもたらすと報告している。
バクー市街地サーキットは、タイヤを適切な作動温度領域内に維持する上で問題を引き起こす可能性が高い独特のレイアウトを有している。全長6.003kmと多くのサーキットより長く、20のコーナーの大半が最初の3.8kmに集中している。一方でターン16を過ぎてから、ターン1までの約2.2kmに渡って全開区間が続くという二面性を持っているのだ。
そのため、コーナー密集区間ではタイヤへの負荷が高く温度が上がる一方で、ストレートではタイヤの温度が約40度も低下すると見られている。標準的なタイヤの作動温度領域が95度~110度であることを考慮すると、マシンがターン1に進入する時点でタイヤの温度はピットレーンでタイヤウォーマーから外された時とほぼ同等になる。
このため上級エンジニアの間では、今季わずか3回しか使用実績のないC6のソフトタイヤよりも、C5のミディアムタイヤの方が適しているのではないかと議論が続いている。
これはある意味で事前に明らかになっていた要素だが、週末を前に新たな不確定要素が浮上した。それは天気である。
事前の予報では、金曜日の気温は22度前後と予想されており、これは2024年の金曜日より9度も低い。実際、FP1のコンディションはセッション開始時点で気温25度。多少予報よりマシとはいえ、昨年よりも涼しいコンディションだったのは間違いない。
さらに、土曜日と日曜日には雨が降る可能性も高い予報となっている。これにより、チームが直面する戦略的判断はさらにシビアなものとなるだろう。ターン1進入時のタイヤ温度低下という既知の問題を考慮すればなおさらだ。このコーナーはカレンダーにおいて最も過酷なブレーキングゾーンであり、モンツァの最初のシケインよりも高い負荷がかかる。
毎周、ハイスピードでタイヤがロックアップするリスクがあり、たったひとつのフラットスポットがタイヤセット全体を台無しにする可能性がある。気温と路面温度の低下は、この現象の発生リスクを高める。
C5とC6の周回タイム差はわずか(ピレリ推定で0.2秒)であるため、チームはより重要なセッションでは既知であり、より安定したコンパウンドのタイヤを使い続ける可能性が高い。
実際FP1では、全車がソフトタイヤを集中的に使用。これは土曜午後の予選、および日曜日に向けてミディアムタイヤを温存している証拠となるだろう。予選までにミディアムを最大限の3セット温存する可能性も十分ある。
予選でミディアムタイヤを使用するのは、前例のない戦略ではない。エミリア・ロマーニャGPの週末、メルセデスのジョージ・ラッセルは C6のソフトタイヤではなくC5のミディアムタイヤを使用して3番グリッドを確保し、カナダでもこの戦術を繰り返してポールポジションを獲得した。
メルセデスが再びこの道筋をたどると広く予想されている一方で、アストンマーティンを中心とした他のチームもそれに追随する可能性が高い。予想通り、各チームがFP1で積極的にソフトタイヤを消費したことで、状況はより明確になった。
予選がウエットコンディションになれば当然、雨用のタイヤが使われることになるが、FP1で各チームが見せた走行プログラムは、予選でソフトタイヤが避けられる、紛れもない前兆だと言える。

