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【対談連載】レノボ・ジャパン 代表取締役社長 檜山太郎

【対談連載】レノボ・ジャパン 代表取締役社長 檜山太郎

【東京・秋葉原発】「これからは自分で目覚まし時計をセットする必要はなくなります」と檜山さん。AIがその日の予定を見越してアラームの時刻を勝手に決める。寝ている間に届いたメールを調べ、必要に応じて返事の下書きまで用意されている。上司に求められた資料のドラフトもできている……。AI同士がつながり、こんな世界が間もなく現実になる。データは爆発的に増大し、クラウドがあふれ、PCの重要性が再び高まっていく。しかしまだ周回遅れの日本。本格的なAI時代が到来する前に、システム・オーケストレーション(System Orchestration=SO)を推進して、大至急立て直す必要がある。
(本紙主幹・奥田芳恵)

●ラグビーを通じて学んだ経営の本質


奥田 檜山さんにとって、ラグビーのご経験はとても大きなもののように思えます。
檜山 激しくて常にぶつかりながら殴り合っているようなスポーツなんですが、終わると血を流しながら握手して互いのプレーをたたえる(笑)。
奥田 ノーサイドですね。
檜山 時々街中で、相手チームの選手から「あのプレーはよかった」とか声をかけられるようなこともあって、そんなラグビーの清々しさがとても好きです。
奥田 ポジションはどこだったんですか。
檜山 日本ではフルバックでした。英国では体格が違いすぎてウイングに回りましたが。英国でフルバックをやっていたら、たちまち弾き飛ばされちゃいます。
奥田 ラグビーを通して学ばれることも多くあったように思われます。
檜山 ラグビーはチームスポーツです。15人それぞれの役割が明確に決められています。自分は自分の役割を追求して、どうチームに貢献するかを真剣に考える。他のメンバーはどうやってチームメイトを生かすかを真剣に考える。戦況を見ながら、臨機応変に動かなければならない。とても頭を使うんですよ。終わると体だけじゃなく頭もすごく疲れているのが分かります。
奥田 なんだか経営にも通じる話のように思えてきました。
檜山 戦況を見て、戦い方を変えていく。相手がこう来ているからこうしようと。ずっと一緒にやっているチームメイトなら、話し合わなくても、戦況次第で、自然にみんなが自律的に動く。経営と全く同じです。市場環境や状況を見ながら戦い方を変えなければならない。「俺のやり方は昔からこうだ」と、スタイルを変えないのは許されません。今も、臨機応変に変えていけるように、チームと自然にコミュニケーションがとれるのは、ラグビーの経験が生きているんだと思います。
奥田 周りを動かすコミュニケーション、大事ですね。

●SI一辺倒では欧米に勝てない これから必要なのはSOだ


檜山 SIだとかDXだとか、ITビジネスは複雑です。いろいろな要素があってスキルも異なります。できる限り簡単に理解できるよう、例え話を多く使うようにしています。
奥田 とても時間がかかりそうですね。
檜山 時間がかかるし、継続的に言い続ける、ある種の忍耐も必要です。日本は海外と異なり、SIが強い。これはオーダーメイドなのでコスト高です。欧米ではSOが主流です。ありものがあるならば、それを使って速くやろうということですね。日本もSOを中心に移行しなければならないと思っています。そんなときに「ユニクロの既製服みたいなものです。短い時間でコストが抑えられます」といった話をするんです。
奥田 分かりやすいですね。SOにシフトする必要性について、もう少し詳しく教えていただけますか。
檜山 日本はデジタル化がとても遅れています。世界に比べて周回遅れです。特にデータを使って新しいビジネスを創出するようなところが、すごく遅れている。データの量こそ世界でトップ5に入るでしょう。ところが活用となると65番目以降、というデータもあるくらいです。改善すべき分野ですが「伸びしろがある」ともいえますね。
奥田 どうしてこんなに後れを取ってしまったんでしょうか。
檜山 日本では、IT業界にまかせっきりなんです。だから、ITエンジニアの数が米国に比べ4分の1とかなり少ない。SOに移行してもっと効率化する必要があります。すでにAIの時代が訪れています。AIの活用はこれからどんどん進んでいくでしょう。そのベースを今、つくっていかなければならないんです。
奥田 AIの活用が必要不可欠であると。
檜山 労働人口はどんどん減っていきます。2040年には20年比で1300万人も減るとの試算もあります。ほぼ東京の人口に匹敵します。それを支えるには、AIの活用しかありません。AIで産業界を盛り上げるよう、今すぐ取り掛かることが大切です。このままだと欧米に負け続けてしまう。
奥田 東芝から日本マイクロソフト、そして今と、ずっとPCに関わってこられたわけですが、これからPC市場を伸ばす余地はあるんでしょうか。
檜山 十分あると思います。レノボに来たのはそれを実現するためでもあります。東芝というハードメーカーからGAFAMの一角でもあるマイクロソフトというプラットフォーマーに移った。これからの産業に不可欠だと思ったからです。ところが、プラットフォームだけでは、市場の活性化には不十分だと感じました。そこで、またハードウェアに戻ってきたわけです。もう戻ることはないと思っていたんですが(笑)。
 AIの活用が進めば、データのコミュニケーションが一挙に爆発します。今のデータセンターだけでは賄えないかもしれません。クラウドに上がってきた情報が外にもあふれ出すでしょう。その受け皿としてPCが必要なんです。市場はもっと伸びるでしょう。
奥田 最近ではサーバーの水冷化が進んでいますよね。あの冷却システムを見ていると、どれだけ熱くなるのかと不安にもなります。ひいては環境問題にも発展するのではないでしょうか。
檜山 システムはすさまじく、ものすごい勢いで熱くなります。当社にはIBM時代からのネプチューンという水冷システムがあり、現在第6世代まできています。常温の水で冷やせるという画期的なシステムです。とはいえ、温暖化にもつながるような問題だけに、われわれだけで解決できるわけではありません。CO2のオフセット券を発行するなどして、ユーザー、パートナーも含めた環境のエコシステムをつくることも重要です。
奥田 温暖化以外にも新しい問題が生まれる心配はありませんか。
檜山 今はバラバラに存在しているAIですが、AI同士の接続が始まろうとしています。AI同士でデータがやり取りされるようになると、例えばプライバシーを含んだデータもどんどん流れ出てしまいかねない。AI同士の接続を監視して管理する必要もあります。
奥田 AIの進展で人間の存在意義は薄れてしまいませんか。
檜山 どんなにAIが発展したところで、私たちは間違いなく新しい創造領域をつくっていくことになるでしょう。そこは楽観視していいと思いますよ。
配信元: BCN+R

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