男性は性転換の影響を受けやすい

男女の差はまず、性転換した体に対する評価に現れました。
実験では性転換した体に対して、被験者たちが感じる一体感や心地よさに対する評価もしてもらっていましたが、女性よりも男性のほうが性転換後の体に一体感や好感を持つことが示されました。
異性の体という慣れない状態に対して、男性は女性よりも素早く適応していたのです。
また性転換後のNPCから受ける愛撫に対しても、男女間で差があらわれました。
男女ともに性転換後は同性NPCの愛撫を受け入れやすくなっているものの、男性は女性よりも同性NPCからの愛撫に対して「気持ちよさ」や「エロティックさ」をより多く感じていることが示されました。
さらに股間や胸などへの愛撫に対して、男性は女性に比べて覚せい度が優位に高くなることも判明します。
研究者たちは、男性は性転換した自分の体に対して敏感であるようだ、と述べています。
一方女性の場合、最も敏感なのは現実の自分自身の体でした。
また女性は性的な意味合いがない限り、NPCからの接触全般を男性よりも好んでいることが示されました。
研究者たちは女性が性転換の影響を男性よりも受けにくいのは、現実の自分の体に対して持つ高い感受性(敏感さ)のためだと考えました。
一言に性転換といっても、男女の間では微妙な差があるようです。
VR世界は異性の体験場所として医療目的でも利用できる

今回の研究によってVR世界での性転換が、性的興奮の方向を変化させることが判明しました。
これまで性的指向は、うまれもった遺伝子などの影響を強く受ける区分であるため、簡単な変更は難しいと考えられていましたが、VR世界での性転換という「簡単な外見的変化」によって大きく揺さぶられることが示されました。
以前にVR世界での性転換はジェンダーに決定的な影響を与えることが示されましたが、影響は性的指向にまで及ぶことが示されたのは、今回の研究がはじめてです。
またVR世界での性転換の影響は、女性よりも男性のほうがより強く出ることも発見されました。
男性は性転換した体に素早く一体感を感じ、同性の男性NPCからの愛撫に対しても「気持ちよさ」や「エロティックさ」を強く感じていたのです。
一方、女性も性転換に反応して性的指向に影響を受けましたが、男性ほどではありませんでした。
女性は現実の自分の体に対して高い敏感さをもっているため、性転換後の肉体に対して一体感を感じにくく、影響も少なくなっていたようです。
研究者たちは今後、VR世界での性転換が、トランスジェンダーの人々にとって医療的なサポートとして利用できると考えています。
また異性の視点を体験することは、社会的スキルが不足している人々のトレーニングやリハビリにも役立つ可能性がある、とのこと。
性的な刺激(愛撫)まで踏み込んでVR世界での性転換効果を調べた研究は非常に珍しく、今回の研究は今後のVR世界の発展にとって礎石となるかもしれません。
参考文献
Embodying an opposite-sex virtual reality avatar appears to alter perceptions of touch
https://www.psypost.org/2021/12/embodying-an-opposite-sex-virtual-reality-avatar-appears-to-alter-perceptions-of-touch-62254
元論文
Wearing same- and opposite-sex virtual bodies and seeing them caressed in intimate areas
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/17470218211031557
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。
編集者
ナゾロジー 編集部

