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ジーンズ5万円!? 高過ぎる服が転売されるほど人気なのはなぜ? 元「smart」編集長が明かす裏原ブームからSNS時代まで、“希少性”が作る市場の力学

ジーンズ5万円!? 高過ぎる服が転売されるほど人気なのはなぜ? 元「smart」編集長が明かす裏原ブームからSNS時代まで、“希少性”が作る市場の力学

C2C市場が生んだ功罪「高く売れるから買う」

またメルカリやSNKRDUNKなどのC2C(個人と個人の間で行う取引)のプラットフォームでは、偽物や無在庫出品こそ禁止されているが、価格設定自体は自由である。

定価3万円のスニーカーが、発売当日にショップの店頭から姿を消し、メルカリなどで2〜3倍以上の金額で取引されることも珍しくないが、これは「需要と希少性が価格を決める市場」として自然な動きとも言える。

それでも転売ヤーが強く嫌われるのは、自分で着るために本当に欲しい人が正規価格で買えないという不公平感を生み出すからである。

ファッション文化を支えるはずの本物のファンが疎外されるうえ、販売現場での買い占めや混乱といった迷惑行為とも直結する。法的にはセーフなので取り締まることはできないが、社会的・道義的にはアウト――。この二重構造が転売トラブルの根本要因である。

メルカリをはじめとするC2C業者たちの功の側面は明確だ。これまで買うだけだった個人を、売買を回す一員に組み込み、ブランドアイテムの価値の再発見を促したことである。

だが同時に罪もある。その価値の発見が、投機のきっかけとなるのを見過ごしてしまったことだ。

かつては「欲しいけど売り切れ」で終わっていたものが、いまは「欲しいから高くても買う」へと変わり、結果として「高く売れるから買う」すなわち転売へと直結する。

ブランドが育てようとする「物語」より先に、二次市場相場が独り歩きしてしまうのである。

裏原ブームに見る閉じた価値観

そもそもなぜメンズブランドの服はこうまで買えないのか。

アパレル市場の規模はレディースがメンズの2倍以上と言われる。ファッションに興味を示す層の割合も女性の方が断然多い。

それにもかかわらず、転売ヤーが暗躍するのは圧倒的にメンズ服だ。理由のひとつは男性の服の選び方にある。

昔も今も変わらず男性は服を買うとき「コートと言えばこれ」「シャツはこのブランド」と指名をしがちだ。

対して女性は複数のアイテムを組み合わせ、全体のトレンド感を重視する。そもそもレディースは商品数が多く着こなしの幅も広いため需要が分散しやすい。その結果レディースではメンズのような一点爆発が生じにくいのだ。

ちなみに筆者はかつて男性ファッション雑誌『smart』の編集に長く携わり、1990年代後半から2010年ごろまでストリートファッションの現場を見てきた。特にその前半、いわゆる裏原ブームの頃にはメンズファッションの世界に熱狂が渦巻き、すでに行列や転売の問題が存在していた。

かつての裏原ブームは、「仲間内だけで着る服」という文化から始まった。狭い店、極端に少ない商品、そして無愛想な店員と奥に漂う“身内”の空気――その閉じられた構造こそがブランドの物語だった。

だが一度その内側に入れば居心地の良い世界が待っていた。ショップに通い詰めスタッフと顔なじみになれば、一般には公開されない入荷日情報が口頭で伝えられることもあった。

そんなゲームを勝ち抜いて希少アイテムを手にすることは、仲間入りの儀式であり、そのハードルの高さそのものが価値となっていたのである。

メンズ服を取り巻くそうした独特の空気は、現在の市場にも、ロレックスマラソン(投機の意味合いも強いと聞くが)などのように形を変えながら残っており、ファッション好きの男性はたちは、数少ない人気アイテムをいち早くゲットするゲームに参加し続けているのである。

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