
画像は、新海誠監督がほぼひとりで作り上げた『ほしのこえ』DVD(コミックス・ウェーブ・フィルム) (C)Makoto Shinkai / CoMix Wave Films
【衝撃】今見ても「圧巻」「すげー」 新海監督が1人で作り上げた、13年前の『ほしのこえ』を知る
監督、脚本、美術、撮影をたったひとりで?
2025年10月24日(金)から3週連続で、新海誠監督のアニメーション作品『秒速5センチメートル』『言の葉の庭』『雲のむこう、約束の場所』が放送されます。いずれも『君の名は。』がヒットする以前の作品とあって、多くのファンから喜びの声があがっていますが、一方で「『ほしのこえ』も放送してほしい」といった声も少なくありません。
話題の中心にある『ほしのこえ』とは、2002年に公開された新海監督の商業デビュー作です。上映時間はわずか25分ほどですが、新海監督がアニメファンから注目されるきっかけとなりました。
本作は、座席数50席足らずのミニシアター「下北沢トリウッド」で初上映されました。広告展開の規模も『君の名は。』とは比べものにならないほどに小さく、まさにインディーズ作品と呼べる内容です。それにもかかわらず『ほしのこえ』はなぜ多くの人の心を掴み、20年以上経ったいまも語り継がれているのでしょうか?
その理由のひとつとして、新海監督がほぼひとりで作り上げたアニメーション映画であることがあげられます。脚本から編集まで制作のほとんどを監督自らが担当し、自宅のパソコンで完成させたことは、ファンの間でもよく知られたエピソードです。現代の技術で考えても驚くべきことですが、当時のアニメファンに与えた衝撃はさらに大きなものでした。
例えば庵野秀明さんや山賀博之さんらが大阪芸大在学中に制作し、「第20回日本SF大会大阪コンベンション(通称:DAICON III)」で公開したアニメーションも、アマチュア作品とは思えない完成度で伝説になりました。つまり当時は、それほど「個人の環境でアニメを制作する」という行為そのものが、現在よりもはるかに高いハードルを伴っていたのです。
そうした状況のなかで、自宅のパソコンを使い、ほぼひとりで劇場公開作品を完成させたのですから、その衝撃は計り知れません。加えて監督自身がホームページで制作状況などを公開していたこともあり、「ひとりで作ったアニメーション映画」という情報は口コミで瞬く間に広がりました。その結果、ミニシアターには行列ができ、DVDも個人制作作品としては異例のヒットを記録しています。
『ほしのこえ』はすべての新海作品に通ずる?
新海ワールドの原点ともいえる『ほしのこえ』。いま改めてその内容を振り返ると、そこには確かに、のちの代表作へとつながるテーマが刻まれていました。
本作は、地球外生命体「タルシアン」と戦う人類といった宇宙規模のSF設定を描きつつ、物語の中心に据えられているのは「長峰美加子」と「寺尾昇」の遠距離恋愛です。国連軍の選抜メンバーとして宇宙へ向かった美加子と、地球に残された昇が、物理的な距離や、連絡が届くまでの時間の長さによって引き裂かれていく様子が描かれています。
この異なる時間や距離による「すれ違い」というモチーフは、後年に発表された『秒速5センチメートル』や『君の名は。』にも受け継がれており、新海監督の根幹的なテーマともいえるでしょう。
さらに「男女の間にある隔たり」という観点で見れば、年齢差による心の距離を描いた『言の葉の庭』や、子供と大人の壁に苛まれる少年少女を描いた『天気の子』も、同じ系譜の物語性を持っています。わずか25分のなかで描かれたテーマは、いまも新海作品の根底に息づいているのです。
『秒速5センチメートル』の実写映画が公開され、改めて新海作品への注目が高まるいまだからこそ、その原点となる『ほしのこえ』を振り返ってみても面白いかもしれません。
