●外食業界と生成AIの今
コロナ禍を経て、飲食業界は活気を取り戻し、新規集客やリピーター施策などの拡販に力を入れるようになっている。それに伴い、新メニューや季節フェア、キャンペーンも増加し、オウンドメディアやグルメ媒体、広告、LINE、XやインスタなどのSNSでの情報発信も活発となっている。その中で画像作成や文章作成などに生成AIを活用することは当たり前になりつつあり、クリエイティブ作成から投稿までを安価にできるサービスも出てきている。
生成AIは、登場したときから広告文や記事、配信メッセージの作成に活用されており、たたき台となる案を作成して壁打ちしながら品質を高めていくのが通常の制作工程になっている会社も多い。画像においてもデザイナーが全てを自分で手を動かして作成すると、どうしても工数がかかってしまい、スピード感が出ない。
しかし、AIを活用することで、時間を従来の半分以下に短縮できたという実績がある。画像に最適化された生成AIを活用することで、料理写真やさまざまなシチュエーションを再現したものを高い精度で生成できるようになっている。
一方、生成AIの画像は「理論的には正しいが、実在感・物語性に乏しい」という指摘も業界から出ている。特にチェーン店では実際の店舗・料理との乖離がトラブルへとつながるために活用シーンが限られてしまう。
例えば、焼鳥をガスグリルで焼いているのに、炭火で焼いている画像を掲載してしまうと誤認を与えてしまう。そのため生成AIへの指示出しとなるプロンプトは考慮が必要となるし、そのチェックにもそれなりの時間がかかることもあり、カメラマンによる撮影というニーズは根強くある。特にプロのカメラマンには色褪せない付加価値がある。
●プロカメラマンにしかできないこと
生成AIが手軽に“料理風画像”を作れるようになったとしても、プロカメラマンが店舗撮影や料理写真などで果たしてきた役割は決して色褪せるわけではない。むしろ、AIとの違いを際立たせる力がその存在価値になっているともいえる。
まず挙げたいのは 物語性(ストーリー性)の再現がある。プロのカメラマンは、料理を出す瞬間、湯気が立ち上るタイミング、照明と影の陰影、器の質感やテーブル小物の配置までを緻密に設計して撮影を行う。そうして生まれた「意味ある1枚」は、単なる料理写真を超えて「この料理が誰のためにあるのか」「この店が伝えたい世界観は何か」を観る人に語りかけるほどの力を持つ。
また、業態(ブランド)の世界観の表現も重要だ。大衆的な居酒屋や高級店、モダンなカフェ、和食割烹など、それぞれの業態には特有の“空気感”がある。AIが生成する画像は、どうしても“平均的で無難な美しさ”に落ち着きやすいが、プロのカメラマンはその業態の世界観はもちろんのこと、その空間や雰囲気を理解して撮るため、“その店らしさ”を撮ることができるのである。
もちろん実際の店舗で撮影時に多少のレイアウトを変更したり、掃除をしたりと、多少の脚色はゼロではないが、あくまで現実の延長線上である。一方、撮影ではディレクターやカメラマンがいないと成り立たないし、内容によってモデルなどの人物も必要となり、それなりにコストがかかってしまうのがネックとなる。

