高市早苗首相は総裁選勝利直後、麻生太郎元首相の影響が大きい党人事を行ったことで「麻生・高市内閣」と揶揄された。しかしここにきて「安倍カラー+α・高市政権」へと大きく様変わりしつつあるともっぱらだ。
霞が関関係者が驚きの表情で明かす。
「高市首相は本当に安倍晋三元首相を崇拝し、信頼していたと唸ったのは、今回の官邸人事を見た時でした。つまり市川恵一前官房副長官補を、国家安全保障局(NSS)のトップに充てた人事です。市川氏は石破政権下で7月まで外交担当の官房副長官補を務めた後、駐インドネシア大使に任命されたばかり。ところが高市政権発足が決定的になると突然、ひっくり返した。この前代未聞の人事に『これが高市政権か』という声が、霞が関と永田町から聞かれました」
前局長の岡野正敬氏は今年1月にNSS局長に就任したばかりで、まだ9カ月しか経っていなかった。このポストは就任すれば2、3年は動かないのが通例だという。ところが今回、こうした常識を全てガラガラポンの大胆さなのである。
先の霞が関関係者が言う。
「2016年、当時の安倍首相は『自由で開かれたインド太平洋戦略』という外交方針を、世界に提唱しました。その政策構想の立案に携わったのが、市川氏であり、安倍首相の信頼が厚かった。高市首相はそうした人物を外交、防衛の総合調整役を果たす要に置いておきたかった、といわれています」
外務省関係者も指摘する。
「高市首相は『安倍イズム継承する本流は自分』であると、強く内外に印象づけるためにも、市川氏を呼び寄せる大胆な人事をしたのでは。まもなく会う安倍元首相シンパのトランプ米大統領にも、自分が安倍氏の真の後継者だということを、わかりやすくアピールできる」
同様の安倍イズムを彷彿させる人事は、安倍政権で首相秘書官や首相補佐官を務めた今井尚哉氏を内閣官房参与に起用したことにもみてとれる。
「今井氏は『官邸のラスプーチン』の異名を持ち、2012年の第2次安倍内閣発足から退陣する2020年まで首相秘書官などを務め、政権の舞台回しを陰で担いました。高市氏はその今井氏を参与に据えたということは、折に触れて知恵を授かりたいという気持ちとともに、安倍イズムの後継を内外にアピールする狙いがあったのでしょう」(自民党ベテラン秘書)
この動きについて自民党長老は、次のように指摘するのだった。
「高市は賢い。長期政権を築いた第二次安倍政権の影の役者たる市川、今井らを取り込むばかりではない。やはり支持率が高く長期政権となった小泉純一郎の知恵袋といわれた元秘書の飯島勲を、内閣官房参与に留任させている。しかも総裁の座を争った小泉進次郎まで、防衛大臣に据えて協力を求める。先人も含め敵、味方関係なく自分への協力が得られるなら全て利用するという貪欲な姿勢だ。こんな貪欲さがあるなら、長期政権となる可能性がある」
高市政権の陣容は整った。あとは目標とする「和製サッチャー」になれるかどうか、お手並み拝見だ。
(田村建光)

