NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』には、毎週のように人気声優やお笑い芸人がゲスト出演している。しかし、物語にはあまり関係のないチョイ役で出演する芸人も…。これは、もしかして話題作りなのでは!?
『べらぼう』芸人の多数起用はなぜ?
現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(以下、『べらぼう』)では、人気声優やお笑い芸人がゲスト出演することでも話題を集めている。
10月26日放送予定の第41回では、「大当開運」という、主人公・蔦屋重三郎が耕書堂に呼んできた評判の人相見役として、爆笑問題の太田光が出演する予定で、ファンの間で盛り上がりを見せている。
これまで出演した芸人は、ネプチューン・原田泰造をはじめ、鉄拳、サルゴリラ、ダウ90000・園田祥太、芋洗坂係長、ダチョウ倶楽部・肥後克広、クールポコ。、ひょうろく、3時のヒロイン・福田麻貴、マキタスポーツ、吉本新喜劇・川畑泰史、丸山礼、ピース・又吉直樹、ガリベンズ矢野、コロコロチキチキペッパーズ・ナダル、有吉弘行、U字工事、カミナリ・竹内まなぶ、川西賢志郎、どぶろっく・江口直人、コウメ太夫、野生爆弾・くっきー!など、かなり多い。
こうした芸人の出演について、視聴者からは「普段とのギャップが面白い」といった好意的な声がある一方で、「一瞬の話題性に頼りすぎでは?」「ストーリーとの関係が薄いのでは?」といった否定的な意見もSNS上に見られる。
実際、基本的に1話限りの出演が多く、本筋との関わりも薄い。いわゆる「カメオ出演」に該当する。クールポコ。に関しては、本当の餅つき職人として一瞬映っただけだった。
こうした芸人のピンポイント出演について、一部マスコミからは「大河の格が落ちる」といった批判も出ているが、作家で歴史エッセイストの堀江宏樹氏は、そうした論調を「的外れ」と一蹴する。
「大河ドラマや時代劇に『品格が必要だ』と言っていられる時代ではないと感じています。声優やお笑い芸人など、さまざまな分野の人たちが、それぞれのキャリアや背景に応じて大河ドラマに出演することは良いことだと思います。“国民的番組”であればこそ、 “国民的俳優”だけが出演するという枠にとらわれず、大河俳優をどんどん増やしていくことは、むしろ自然な流れです」
同作の視聴率は、決して高くはない。一方で、NHKプラス(現・NHK ONE)において配信された全ドラマの中で、初回放送のみならず全話を通じて最多視聴数を記録している。
「つまり、従来の歴史ドラマや時代劇を好むコアな大河ファンだけでなく、これまで観なかった層も楽しめる作品になっているのです。あまりにも玄人ウケを狙った内容にしてしまえば、新規層は離れてしまう。だからこそ、声優や芸人、グラビアアイドルなど、いわゆる“俳優”ではない人たちをカメオとして多数起用し、それぞれのファンがSNSで話題にしてくれる。そうやって、世間との接点をつくろうとしているのでしょう」(同)
NHKのドラマ班の狙いは……
また、「話題作り」と言われがちな起用でも、SNSでの盛り上がりは軽視できない。ある映像制作会社関係者はこう語る。
「2024年に放送されたNHK連続テレビ小説『虎に翼』が異例の成功を収めて映画化に至ったのも、放送のたびにSNSで語られ、話題になったことが大きい。そのため、SNSで火をつけるために“話題になりそうなキャスティング”を仕掛けるのは、今や当たり前の戦略とも言えます。
ただ、それを従来の大河や朝ドラの文脈で見てしまうと、視聴者にとっては違和感になるのかもしれません。だから否定的な声も目立つのでしょう」
単純な視聴率だけでは語れない時代。だからこそ、芸人の起用によって大きな話題を呼び込めるのだ。
「制作者としても、“若手実力派俳優”より、コントで演技を磨いてきた芸人の方が、人気があり起用しやすいんです。芸人にとっても、ドラマや映画への出演は“演技力の証明”になるため、目標の一つになっています」(映像制作会社関係者)
前出の堀江氏は、特に印象的な役として、ダチョウ倶楽部・肥後克広が演じた彫師・四五六の名を挙げる。
「蔦重が彫師たちに『吉原細見』の制作を依頼するも、老舗の地本問屋に阻まれ、彫師たちもまともに取り合ってくれない。四五六も『そんな割の悪い仕事、受けてられるか! 帰れ、べらぼうが!』と怒鳴り、蔦重を追い返して扉をバンと閉めようとします。しかし、扉が閉まる寸前、蔦重が桶を差し込んで『わかりました! 吉原での大宴会付きでいかがでしょうか?』と叫ぶと、即座に扉が開き、四五六が満面の笑みで迎え入れる……。これは肥後さんの芸風とキャラクターが活かされたキャスティングでしょう」
そんな『べらぼう』も、いよいよ残すところ数話で最終回を迎える。重要キャラクターとして野生爆弾・くっきー!演じる勝川春朗(のちの葛飾北斎)も登場したが、堀江氏はもうひとり、注目すべき人物の存在を示唆する。
「それは、謎の絵師・東洲斎写楽を誰が演じるのかという点です。名前と作品は知られていますが、実は活動期間は約10か月と短く、正体について有力説はあるものの、それが絶対確実とはいいきれません。そんな写楽を、蔦重は前例もない中で抜擢します。ここが『べらぼう』終盤の山場になるのですが、これまで多くの芸人が登場してきた流れから考えると、きっと予想を超える芸人がキャスティングされるのではないかと思います」
なお、史実を知る者にとっては、爆笑問題・太田光が演じる人物も1回限りの登場であっても、今後のストーリーに大きな影響を与える重要な役どころになると見られている。
今後も『べらぼう』から目が離せない。
取材・文/千駄木雄大

