実は10代でも発症する「リウマチ」の誤解

「リウマチ」という言葉を聞いて 、読者の方がイメージするのは「高齢者がかかる病気」「膝の痛みや腰痛みたいなもの」「温泉に入ると治る」あたりではないだろうか?


リウマチに対して、「腰痛、肩こりみたいなもの。温泉や湿布で治る」と考えている人も多いのでは?

実はリウマチは、若い世代の発症例も多く、症状によっては障害者手帳が交付されることもある病気。原因は解明されておらず、いまなお治療法や治療薬の研究・開発が進められている。

知名度が高い割に、謎が多いということをあまり知られていないリウマチ。今回は、一般社団法人日本リウマチ学会(外部リンク)の理事長で、リウマチの専門医でもある竹内勤(たけうち・つとむ)さんに、誤解されることの多いリウマチ治療の現状や課題について伺った。

リウマチについて正しく知り、正しく恐れていただきたい。

関節リウマチは免疫機能が自分自身を攻撃する病気


オンラインでの取材に応じてくれた竹内さん

――早速ですが、そもそも「リウマチ」とはどんな病気なのでしょうか?

竹内さん(以下、敬称略):誤解されている方が多いのですが、リウマチとは症状を指す言葉で、病名ではありません。関節や筋肉に痛みやこわばりが起こる病気全てを「リウマチ性疾患」と呼びます。このリウマチ性疾患を引き起こす病気はたくさんあり、痛風(※1)や骨粗しょう症(※2)、新型コロナウイルスにかかった方の中にもリウマチ症状を起こす場合があります。


1.血液中の尿酸が飽和濃度を超えることで結晶化し、免疫細胞が反応して炎症を起こす病気

2.骨の強度が低下して、骨折しやすくなる病気

――リウマチは症状のことなんですね。「せきが出る」みたいな。

竹内:ええ。このリウマチ性疾患を引き起こす病気の中で、代表的なものが「関節リウマチ」です。ややこしいのですが、医者が「リウマチ」という場合は、この病気のことを指していることがほとんどです。

――リウマチという言葉だけだと、「一般的解釈」と「医者の解釈」の2つの意味でとれてしまうんですね。正しく「症状=リウマチ性疾患」「病名=関節リウマチ」を分けて考えないとややこしくなってしまう。では、改めて「関節リウマチ」とは、どんな病気なのでしょうか?

竹内:“免疫の異常”により関節に炎症が起こり、痛みや腫れが生じる病気です。


関節リウマチによる手指の変形。進行すると骨や軟骨が変形・機能障害を起こし、人工関節を入れなくてはならない場合もあるという。Witsawat.S/Shutterstock

――え?関節リウマチの痛みって、免疫の異常が原因なんですか?

竹内:そうですね、そこを飛ばして「リウマチ=関節が痛む」と捉えてしまう方は多くいらっしゃいますが、関節リウマチは免疫が異常を起こす病気です。ウイルスなどの異物が体内に入ったときにそれを攻撃し、身体を守るのが免疫の役割ですが、免疫異常を起こすと、本来攻撃しなくてもいいの細胞や臓器を攻撃してしまうのです。なので「免疫機能が自分自身に偏ってしまう」と言ったほうが分かりやすいかもしれません。


免疫機能が偏り、自分自身を攻撃してしまうのが関節リウマチだ

――そういった免疫異常が起こってしまう原因は何なのでしょう?

竹内:研究は進んでいるのですが、いまだに解明はされていません。遺伝的要因のほか、喫煙や肥満などの環境要因の関与が指摘されていますし、ストレスも大きく影響していると考えられています。最近では「大気中の粒子に原因があるのでは?」という研究も進められていますね。


印象派の画家であるルノワールも、自転車から落ちたことがきっかけで、関節リウマチを発症し、死ぬまで苦しんだとされている

――リウマチにそんなに謎が多いとは……。現在、日本で関節リウマチにかかっている方はどれくらいいるのでしょうか?また、男女比や年齢層についてはいかがでしょうか。

竹内:関節リウマチに罹患している方は100万人前後といわれています。高齢者が多いと思われがちですが、子どもから大人まで、あらゆる世代がかかる病気です。男女比は約1対3と、女性の方が多いというデータが出ています。

――女性が多いということは、女性が持つ遺伝子が関節リウマチにかかりやすいということでしょうか?

竹内:実はそこもはっきりと分かっていません。「女性が持つ遺伝子」が理由かもしれないですし、「女性ホルモンが多い」、もしくは「男性ホルモンが少ない」ことで発症するということも考えられます。

――温泉でよく見るので「簡単に治る腰痛みたいなもの」ってイメージがありました。全く違いますね……。

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関節リウマチの完治は難しいが、医療は進歩している

――一度発症した関節リウマチは、治るのでしょうか?

竹内:正直なところ、一度発症した方が「薬を使わず、完全に症状がない状態で過ごせるようになる」ことは難しいんです。現在の医療では、薬を使いながら日常生活を送れるようにする状態を目指すことが現実的とされています。

――ほう……「不治の病」と言ってもいいんですね。そこまでの病気だとは知りませんでした。

竹内:ただ、これでも昔と比べると医療は大幅に進歩しているんです。現在は1週間から2週間に1回でいい皮下注射や、1〜2カ月に1回でいい点滴など、多くの選択ができるようになりました。皮下注射は自身で打つことが可能ですので、働きながらでも治療ができるようになったんです。最近ではこれらの注射・点滴に加えて、新たな経口の薬も登場しており、患者さんにとってはかなり利便性が上がったかと思います。


注射剤タイプのリウマチ治療薬のうち方(イメージ)。Andrey_Popov/Shutterstock

――もし関節リウマチになった場合、治療費は月にどれくらいかかるのでしょうか?

竹内:皮下注射の生物学的製剤(バイオ医薬品)は、保険適用で自己負担額は4.5万円程度。バイオシミラー(※)で1.5万円程度ですね。


遺伝子組換え技術などを使用した複雑な医薬品をバイオ医薬品と呼び、その後続品をバイオシミラーと呼ぶ。医薬品に対するジェネリック医薬品的なもの

――それでも年間18万円は結構な出費ですね……。関節リウマチに予防方法はあるのでしょうか?

竹内:たばこを吸う方や肥満の方は、禁煙する、体重を増やさないようにするなど、生活習慣の見直しをおすすめします。また、免疫が活発化することで起こる病気なので、できる限り風邪や歯周病といった病気にかからないように気を付けることも重要です。あとはストレスを感じないことが予防といえるでしょう。あまり言ってしまうと行動を制限することになってしまうのですが……。

――病気やけがをすること自体が、関節リウマチの発症にもつながってしまうんですね。

竹内:年齢にかかわらず、ご家族に関節リウマチの方がいる場合や、血液検査でリウマトイド因子というものに陽性が出たり、抗CCP抗体というものの値が高かったりする場合、発症するリスクが高いといえますので、気になる方は検査をしてみることをおすすめします。