私は、大麦をさらに効果的に摂取するために、患者さんには、「朝」に「主食として」とることをお勧めしています。主食にすれば、摂取回数を増やしやすく、継続的にとることができ、いわゆる「セカンドミール効果」で昼食後の血糖値上昇も抑えることができます。【解説】鈴木功(鈴木漢方内科クリニック院長)

解説者のプロフィール

鈴木功(すずき・いさお)

1991年、鹿児島大学医学部卒業。2005年、上海中医薬大学附属日本関西校修業。07年に、自由診療の Traditional chinese medicine 鈴木クリニックを開院、13年、鈴木内科クリニックとして保険診療を開始。20年に一度閉院後、22年、自由診療に変更し、鈴木漢方内科クリニックとして再び開院。著書に『魔法のスープ ボーンブロスでやせる 間ファスダイエット』(主婦の友社)がある。

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初期糖尿病患者の血糖値がみるみる改善!

私は数年前から、糖尿病の患者さんに、食事療法の柱として「大麦」を勧めています。

初期の糖尿病のかたや、ヘモグロビンA1c(過去1~2ヵ月の血糖状態がわかる指標で、基準値は4.6~6.2%)でいえば6.5%未満までの、いわゆる境界型糖尿病のかたに、大麦を主食として継続的に食べてもらうと、ほとんどの場合、血糖値がみるみる改善していくのです。

実際、刑務所のように継続的に大麦(麦ご飯)を食べる環境にいると、約8割の糖尿病患者さんの症状が改善する、という研究結果もあります。

大麦は、なぜこのような効果をもたらすのでしょうか。

大麦の最も着目すべき成分が、食物繊維の1つ、β‐グルカンです。食物繊維は、水に溶けない不溶性食物繊維と、水に溶ける水溶性食物繊維の2つのタイプに分けられますが、β‐グルカンは、水溶性食物繊維の代表格です。

この水溶性食物繊維をしっかり摂取することが、糖尿病によい影響をもたらすのです。

β‐グルカンは、水に溶けるとゼリー状になり、胃の中の食べ物を包み込んで、体の中をゆっくり移動します。すると、食べ物の中の糖質は吸収が緩やかになり、食後血糖値の急上昇を防ぐことができます。

さらにβ‐グルカンが小腸下部まで移動すると、小腸のL細胞(小腸や大腸に散在する内分泌細胞)を刺激して、GLP-1というホルモンの分泌を促します。

食べ物から栄養分として吸収された糖は、血液中を巡り、筋肉の細胞まで到達。そこで細胞に取り込まれエネルギーとして使われます。食後、この細胞への取り込みを促すのが、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンです。

ところが、インスリンがよく働かないと、細胞への糖の取り込みが進まず、血液中に糖があふれてしまいます。こうして高血糖の状態が続くのが糖尿病です。GLP-1は、膵臓からのインスリンの分泌を促し、糖の細胞への取り込みをスムーズにしてくれるのです。

一方、食事をしていないときは、血糖値を上げるホルモンであるグルカゴンが分泌されています。

本来なら、食事をとるとグルカゴンの分泌が抑制されるはずですが、なかにはグルカゴンが出続けてしまう人がいます。こういうかたはインスリンの効きが悪くなり、血糖値の上昇を招き、それが糖尿病の発症、あるいは病状の悪化へとつながっていきます。

β‐グルカンによって分泌が促されるGLP-1は、インスリンの分泌を促すと同時に、グルカゴンの分泌を抑制。血糖値にかかわるこれら2つのホルモン分泌のバランスを取り、正常化することで、糖尿病の改善効果をもたらすのです。

さらに、GLP-1は、脳の満腹中枢に働きかけて、食欲を抑え、過食を防ぐ効果ももたらします。こうしたさまざまな作用が期待できるため、現在、GLP-1は糖尿病の治療薬としても大いに活用されています。

そのGLP-1の分泌を促すβ‐グルカンが、糖尿病の改善に有効だということもうなずけます。

また、β‐グルカンは、糖質の吸収を抑制することに加えて、余分なコレステロールの排出も促すので、大麦を摂取することで、コレステロール値も改善するのです。