新しいフェーズへと向かうパリコレクションに見るサステナビリティ

次なるトレンドやメッセージが発信されるモードの最前線、パリコレクションでもサステナビリティは外せないキーワードの一つ。ファッションジャーナリスト・渡辺三津子氏が、2023-24年秋冬シーズンの取材を通して見えてきた動向を解説。

「サステナビリティ(持続可能性)」のテーマは、昨今のファッション界最大の課題といえよう。ここ数年、国やブランドがさまざまなレベルで、環境や人権問題をも含めた上での「サステナブル」なファッションを目指し始めている。業界最大のイベント、パリコレクションにおいて今、サステナビリティはどんな様相を呈しているのか。私が、今春パリで2023年秋冬コレクションを見て、感じたことをお伝えしたいと思う。

現在のパリコレ参加ブランドの中でサステナビリティに最も高いレベルで取り組んでいるのは、間違いなく「ステラマッカートニー」と「クロエ」であろう。ステラのショーでは、馬と対話できる「ホースウィスパラー」が自ら育てたポニーたちと共に登場し、モデルが同じ馬場を歩くという演出がなされた。総ルックの92%に環境負荷を軽減した素材を、バッグには新開発のヴィーガンレザーを使用し、ブランド史上最もサステナブルなコレクションとなった。馬を愛したステラの母と姉が撮影した馬の写真を服にプリントした個人的な“愛の思い出”と共に、「動物も人間も自然も、誰も苦しまず、共生する世界」を情感あふれるヴィジョンとして描いてみせた。


Stella McCartney

クロエは、ファッション界でいち早く(2021年)B Corp認証(SDGsに代表される世界共通の目標を高い水準で実践する企業に与えられる国際的な認証)を取得したブランドで、2020年末に環境問題に積極的に取り組むガブリエラ・ハーストをクリエイティブ・ディレクターに迎えている。今回のショーでは気候変動問題とともに「女性の社会貢献」を支持するテーマが掲げられ、17世紀の女性画家をインスピレーション源にして、女性の創造性と可能性をファッションとして表現。コレクションの62%に低環境負荷素材を使用するだけでなく、すべての服に付帯されたデジタルIDによって、生産過程を追跡し、修理情報にもアクセスできる。トレーサビリティ(追跡可能性)を実現しながら、服を長く着る行為にもつながるシステムだ。


Chloé

また、パリコレ参加ブランド中、2番目にB Corp認証を得たのは、今回パリで初のショー形式によるプレゼンテーションを開いた日本の「CFCL」であることにも注目したい。「イッセイ ミヤケ メン」のデザイナーだった高橋悠介が立ち上げたブランドで、無駄な素材が出ない3Dコンピューター・ニッティングを中核にした服作りでファッションの環境問題の解決を目指している。2030年までにリサイクル素材の使用率を100%にする目標だ。環境に配慮する技術によって実現する機能性と共に、新時代のエレガンスを追求する姿勢に今後も期待したい。


CFCL

「ディーゼル」CD、グレン・マーティンスが贈る“ポジティブメッセージ”

パリコレ全体に目を向けると、パンデミック後に復活したショー開催への喜びが前面に表れたシーズンという印象だった。サステナビリティを声高に叫ぶのではなく、ショーではより想像力を刺激するビジョンが重視されていたと感じる。課題解決の段階が新しい展開を迎えたといえるのかもしれない。「ロエベ」のジョナサン・アンダーソンは、平面的なドレスに40年代の服のプリントを重ね、服の過去から未来に想像力を喚起し、服の命とは何かという観念的な問いを投げかけた。会場に配されたアート作品は、アーティストの今後の制作に再利用される予定で循環型の思考が込められている。


Loewe

「ルイ・ヴィトン」のショーセットも環境保護が考慮されていた。フレンチスタイルがテーマのショー会場に精巧に再現されたパリの街並みの素材は木材の90%以上がFSC認証材で、ショー後には2次使用されるという。


Louis Vuitton

最後に、もう一人の日本人デザイナーのことにも触れておきたい。「TOMO KOIZUMI」の小泉智貴は最新コレクションのショーを「ドルチェ&ガッバーナ」のサポートによってミラノで開催したが、パリコレでもプレゼンテーションを行った。小泉は、誇張されたフォルムのカラフルなフリルドレスをアイコンとして、ミュージシャンの衣装などでファッションの領域を広げながら創作活動を展開している。「色を選ばない」ことをテーマにした新作は、「ドルチェ&ガッバーナ」の過去の残布や日本のデッドストック生地を用いて、「計算できない美しさ」の表現を試みた。それは、残り物を循環させると同時にクリエーションへの挑戦でもあった。環境のためのデザインではなく、「布の再生」が新たな創造を生むということ。その逆転的発想に心動かされた。ファッションの根本にあるのは、日常の中の創造性と想像力の喚起である。それは、サステナビリティを推し進める上での核心ともなるであろう。


Tomo Koizumi

創造と職人技を極めたオートクチュール「ジョルジオ アルマーニ プリヴェ」が描く光と色のプリズム