官能的で現代的な女性像を追求 アレッサンドロ・デラクアの「N21」

日本でも人気のイタリアのブランド「N21(ヌメロ ヴェントゥーノ)」のクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・デラクアが来日した。彼の世界観やそれらを生み出す日頃の仕事ぶりについて聞いた。

「フェミニニティ、センシュアルなムード、そしてモダニティは、僕にとって、とても重要な要素です」とは、イタリア発のブランド、「N21(ヌメロ ヴェントゥーノ)」のクリエイティブ・ディレクター、アレッサンドロ・デラクア。自身の名前を冠したブランドを手がけていた彼が、それを手放し、「N21(ヌメロ ヴェントゥーノ)」で再出発を計ったのは、2010年のこと。これ以降、デラクアらしいシャープなテーラリングや官能的な女性らしさに、カジュアルさやスポーティなテイストもプラスされ、よりウェアラブルなコレクションを展開し、人気を集めている。

「21は、僕が生まれた日の数字。生まれ育った南イタリアではラッキーナンバーでもある。ナポリの人たちは、そういう迷信を信じるからね。それで、ブランド名は、N21(ヌメロ ヴェントゥーノ)にすることにしたんだ」

デラクアは、ナポリでファッションとは無縁の家族の中で育った。それでも、かつてから映画に情熱を見いだしていた彼は、そこに登場する女優たちの装いにも興味を持つようになったのだそう。その頃は、まだファッションを学ぶ学校が一般的ではなかった時代。若きデラクアは、ナポリから単身、ミラノへ。そこで、ファッションに携わる数々のクリエイティブな人たちと知り合い、センスと努力を武器に独学でデザイナーへの道を切り開いていった。

「若い頃は、映画にどっぷり。13歳くらいからはファッションデザインに目覚めて、モード雑誌を読みあさっていたんだ。今も映画は大好きで、その世界観がデザインの着想源になることもしばしば。でも、映画のシーンはきっかけにしか過ぎなくて、その登場人物たちの振る舞いやムードをヒントにして、想像を広げていのが僕のやり方」


N21 2023-24Fall/Winter Collection


N21 2023-24Fall/Winter Collection

そんなデラクアが手がける2023-24年秋冬コレクションのイメージソースとなったのが、1960年代のミケランジェロ・アントニオーニ監督の映画『La notte(夜)』に出演したモニカ・ヴィッティとジャンヌ・モロー。彼は、この2人は、現代を象徴するような女性である、と言う。

「彼女たちは、1960年代の映画の登場人物です。今回のコレクションの出発点は、過去から切り取ったイメージですが、そのレトロな雰囲気にとらわれすぎず、現代を生きるモダンな女性像を織り交ぜていく。そうやってバランスを取りながら、コレクションを作り上げていきました」

もっとも彼のインスピレーションソースは映画に限ったものではない。日々、どんなものからでもひらめきは得られると語るデラクアは、寝ている時以外は常に仕事モードだ。

「僕と一緒にバケーションに行く人は大変だと思う。どこにいても常にアンテナを張り巡らせているからね。気が休まることはないよ(笑)。せっかく休暇を取って旅に出ても、結局、頭の中は仕事のことでいっぱいなんだ。ひらめきは突然、降りてくるから、起きている間はいつも営業中」

そんな忙しい日々を過ごす彼が一番好きだという時間が、一人で自室に籠り、デザイン画を描いているとき。今もパソコンを使うことなくフリーハンドで行っている。

「デザイン画を描きながら、どんなアイテムが必要で、どんなスタイルを作るかなど、編集しながら、進めている。それは僕にとってとても楽しい時間なんだ。そして、ランウェイショーは本当に短い時間で、何が起きているか分からないまま終わってしまう。だから、仕上がったコレクションがゆっくり堪能できる、ショー直前のキャスティングやフィッティングの時間も好きだね」


N21 2023 PREFALL COLLECTION


N21 2023 PREFALL COLLECTION

現在、春夏や秋冬のコレクションに加え、プレやリゾート、カプセルなど、ファッションカレンダーはどんどん過密になっている。コロナ禍で、少しはスローダウンするかと思われたが、実際にはそんなことは全くないとデラクア。

「ショーが終わった翌日から、次のコレクションに取り掛からないと間に合わない! デザイナーはとても過酷な仕事だと言えるね。それでも僕は、“ファッションデザイナーという仕事が僕を生かしてくれている”ことに感謝しているんだ。世の中には、多くの職業がある中、好きなことを仕事にできていて、僕がデザインした服を着て、幸せになってくれる人がいる。こんなに幸せなことはないよ。実は僕、以前に50歳になったら、デザイナーを引退すると言っていたことがあるんだけど、しなかった。次は65歳で引退かな? でも、きっとその時も辞めることなくデザイナーを続けていると思うよ」

text: Tomoko Kawakami

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