世界はまだ、私たちの知らないお菓子で溢れている。

連載「郷土菓子研究社・林周作の“世界のお菓子を巡る旅”」では、世界を旅するパティシエ「郷土菓子研究社」の林周作さんをナビゲーターにむかえ、その土地の環境や文化から生まれた不思議で美味しいお菓子を紹介します。

第2回はスパイス大国インドから。人口は世界第2位、国民の約80%がヒンドゥー教徒の国で、その食文化も独自の発展を遂げています。そんなインドの郷土菓子の中で今回は、象顔の神様ガネーシャの大好物だというお菓子「ベサンラドゥ」を紹介。ひよこ豆の粉“ベサン”と、インド特有のバター“ギー”、砂糖で作るシンプルかつ奥深いお菓子です。

【前回の記事はこちら】
【新連載】郷土菓子研究社・林周作の“世界のお菓子を巡る旅”vol.01|中東アゼルバイジャンのザクザク、甘さの中にスパイス香る「シェチェルブラ」

宗教と環境が影響するインドの食文化。数えきれないほど種類が豊富な「ベサンラドゥ」とは

インドは南アジアに位置し、国土は日本の約9倍。5千年以上の歴史と多様な気候でたぐい稀なる文化を構築してきました。特に、14.08億人という世界第2位の人口のうち約80%がヒンドゥー教ということもあり、生活や文化に深く宗教が根付いています。

林さん「インドは南と北で異なる食文化をもっています。北部は歴史的にヨーロッパの影響を受けているため、乳製品たっぷりの濃厚な味わいのお菓子が多い。それに対して、南部はココナッツやスパイスを使った、アジア系の食文化を感じられるものが多く見られます。

僕が『ベサンラドゥ』に出会ったのは、南部に位置するバンガロールという地域です。『ベサンラドゥ』は、インドで最もポピュラーなお菓子で地域によって様々な種類が存在する『ラドゥ』の1種。しっかりとした甘さが特徴で、ベサンとはひよこ豆を意味します」

象の顔をしたガネーシャの大好物としても知られるお菓子。そのため、祝祭時のお供え物には欠かせないんだとか。

林さん「『ラドゥ』は街のいたるところで売られています。瓶に入っている様子は、僕に日本の煎餅屋の光景を連想させた。それだけ、住民にとって身近なお菓子だということですね」

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「ベサンラドゥ」に欠かせない材料“ギー”。インドは珍しい材料がいっぱい

林さん「『ベサンラドゥ』の作り方は意外とシンプル。材料はベサン粉(粉末状にしたひよこ豆)、粉糖、カルダモンなどのスパイス、ナッツ類やドライフルーツ、ギーです。

中でも、どの『ラドゥ』にも必ずと言っていいほど入っているのがギー。ギーは水牛の乳を使ったバターオイルで、独特な香りがあります」

鍋の中で材料を混ぜて炊いた後、冷やしてくるくると丸めるだけの少ない工程で作られる「ベサンラドゥ」。家庭やお店によってアレンジしやすく、常温で保存が可能なため、暑いインドの気候にもぴったりなんだとか。

林さん「インド人の言葉に“香辛料は人を奮い立たせ、お菓子は気持ちを穏やかにさせる”というものがあります。確かに、現地で食べた郷土菓子はどれもオイリーでがつんと甘かった。でも、じりじりとした暑さの中、チャイと一緒に食べるとなんだかしっくりくるんです。こういう不思議な体験が、郷土菓子の面白さだと思っています」