お子さんが手遅れになる前に!子どもが3歳児までに視力検査を受ける重要性

一生ハッキリ見えないと言われている「弱視」の子ども。視力検査により、早期に発見できていたら救えたかもしれないことをご存知ですか。幼児には、3mの距離で行なう「遠見視力検査」は難しいのですが、30cmの距離で行なう「近見視力検査」 なら容易に、しかも短時間に正確にできます。子どもの視力について40年以上研究している桃山学院大学名誉教授の高橋ひとみ先生に、詳しいお話を伺いました。

Q:高橋名誉教授は3歳児の視力検査の重要性を広める活動をされていますが、そこに着目されたきっかけを教えてください。

「子どもの視力」の研究を40年以上続けてきました。視力不良による負担なく、すべての子どもが公平に学校教育を享受できる社会を目指して、研究を行なっています。

「学校教育を円滑に進める」ために、学校では健康診断が行われています。その項目に、視力検査があります。現行の視力検査は、「学校教育を円滑に進めるためには教室のどこから見ても黒板の文字が見える視力が必要」として、5mの距離で行なう遠見視力検査です。

しかしながら、「黒板の文字が見えても、教科書やノート、PC 画面の文字が見えない」子どもがいます。一般的に、「遠くが見えれば近くも見える」との思い込みがありますが、「遠くを見る視力」と「近くを見る視力」は異なります。

ICT 教育の推進により、これまでの黒板中心の学習形態から、タブレット中心の学習形態に変化してきました。児童生徒、ひとりひとりにタブレットが配布され、タブレットを使った授業が行われるようになりました。ところが、タブレット画面の文字が判読できない子どもがいるのです。

学校教育を円滑に進めるためには、黒板の文字が判読できる「遠見視力」に加えて、教科書やPC画面の文字を判読できる「近見視力」が必要です。

そこで、「遠見視力検査のみでは見逃される」近見視力不良者の存在を明らかにするために、遠見視力検査と近見視力検査を実施し、その関連を検証してきました。しかしながら、学校で視力不良者を発見しても、「すでに手遅れの子ども」がいることが分かりました。「眼鏡をかけても矯正視力がでない弱視の子ども」です。三歳児健診や幼稚園・保育園で視力検査を受けてきた筈なのにです。

弱視になると、眼鏡をかけても、一生、ハッキリ見えません。

この検証結果を受けて、「手遅れの子ども」をださないために、3歳児の視力検査の実施率および受検率を上げる必要性を痛感しました。三歳児健診や幼稚園・保育園で視力検査を受け、眼の異常や疾病を発見し、3歳から治療を開始すれば、小学校入学までには良好な視力の改善が期待できます。視力不良による負担なく、義務教育を開始することができます。

3歳児の視力検査の重要性を多くの人に、特に、幼児をもつお母さんやお父さんに伝えたいと、講演やワークショップを開催しています。

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Q:なぜ3歳児なのでしょうか?

感受性期を過ぎると、もう視神経の回路は作られません。

図1

via 視覚の感受性期 図1

ヒトの視覚は「発達する時期」が限られています。これを、「視覚の感受性期」といいます。視覚は、3ヵ月~18ヵ月をピークに発達し、3歳頃には両眼視機能と眼球運動機能の発達が終わります(図1)。

図2

via 見える仕組み_図2

両眼視機能と眼球運動機能が正常な発達をすることにより、外界の光情報が「網膜上に像を結び」ます。光情報が「網膜上に焦点を結ぶ」と、網膜の視細胞が「光情報を電気信号」に変えます。そして、「電気信号を脳へ伝える」ために、すなわち、「眼の情報を脳へ伝える」ために、視神経の回路が形成されます。脳が「伝えられた情報」を認識して、「見える」のです(図2)。

視覚の感受性期に、「見る」ことに支障があると、視神経の回路は作られません。繰り返しますが、両眼視機能と眼球運動機能の発達は3歳頃には終わり、視神経の回路の形成も6歳頃には終わります。

したがって、感受性期(6歳頃)を過ぎてから、視力不良が見つかっても遅いのです。

感受性期を過ぎて視力不良が分かり、眼鏡をかけても、「眼の情報を脳へ伝える路ができていない」ので、脳は認識しません。すなわち見えません。眼鏡をかけても、「一生ハッキリ見えない」のです。これが一般的な弱視(医学的弱視)です。

視覚の感受性期に、視力検査を受けて、視力不良を見つけることが大切なのです。

視神経の回路についての説明

産まれた時は、視神経の回路はできていないのでハッキリ見えません。生後5日目くらいは、「明るさが分かる」程度の視力になります。その後、「見る」ことにより、視神経の回路が形成されていきます。

生後6ヶ月くらいになると、視神経の回路が増えるので、眼前50cmくらいの玩具が判別できるくらいの視力になります。そして、感受性期が終わる6歳頃には、視神経の回路は約100万本作られ、視力は1.0以上になります。

弱視は早期発見で予防できる

視覚の感受性期のピークは生後3ヵ月~18ヵ月ですが、自覚的視力検査が可能になるのが3歳頃です。

国は、「低年齢ほど弱視の治療効果は大きい」ことを考慮して、視力検査の適切な年齢を3歳児とし、平成2年から三歳児眼科健診に視力検査を導入しました。

繰り返しになりますが、3歳頃に眼の異常や疾病を発見し、治療を開始すれば、小学校入学までには良好な視力の改善が期待できます。入学時の視力不良者の頻度を下げることができます。視力不良による負担なく、義務教育を開始できます。