【乳がん】あまり心配はいらないが「早めに病院を受診すべき」乳房の症状

胃がん、肺がん、大腸がん…がんを発症する部位はさまざまですが、女性にとって罹患数トップの部位は「乳房」です。乳房のがん、すなわち「乳がん」から命や健康を守るためには、どうすればよいのでしょうか。本稿では「症状」を取り上げて見ていきましょう。日頃多くの乳がん患者さんを診る尾崎章彦医師が解説します。

1.もしかして乳がん?と思ったらできるだけ早い受診を

公益財団法人ときわ会常磐病院乳腺外科の尾崎章彦と申します。前回は、乳がん検診の意義や受けた方がいい検査、乳がんが心配される症状に気づいたときの対応について、筆者の経験や、震災後に福島で行った調査結果なども交えつつご説明しました。

定期的な乳がん検診をお勧めするのは言うまでもありません。一方で、定期検診受診の有無に関わらず、乳がんを思わせるしこりや乳頭分泌といった症状に気づいた場合は、できるだけ早く受診し、乳がんかどうか確認することが望ましいと言えます。

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2.乳がんが疑われる症状とは?

ここでまず、“乳がんを疑いがちな症状”の代表例を3つ見ておきます。

2-1.乳房のしこり

最も重要な症状は「乳房の腫瘤(しゅりゅう)」、いわゆる「しこり」です。

乳がんを疑う腫瘤は、一般に、硬く、触っても位置が動きにくく、表面がなだらかでない傾向にあります。ただ、そのような特徴のないしこりでも、乳がんの可能性は否定できません。ですから、しこりを感じた場合には、早めに医療機関を受診し、乳がんを専門的に診療している医師の診察を受けることが重要です。

マンモグラフィーや超音波検査、MRI検査などの画像・映像から乳がんが強く疑われる場合は、しこりに針を刺して実際に組織を一部採取し、調べます。乳がんの診断がつけば治療に移り、「線維腺腫」などの良性のしこりと判断されたら、経過観察となります。

およそ90%程度の乳房腫瘤は良性の病変であると報告されていますので、乳房にしこりを見つけても悲観することなく、早めに医療機関を受診してください。

2-2.なかなか治らない乳頭や乳輪の湿疹

続いて、ちょっと注意を要するのが「乳頭や乳輪にできた治りにくい湿疹」です。「パジェット病」と呼ばれる珍しいタイプの乳がんの可能性があります。

特徴は、がん細胞が乳頭や乳輪の表面内を這うように広がることです。ただ、発生頻度が極めて低いので、乳がんとしての認知度も低いのが現状です。

例えば、2018年に日本で治療された90,683例のうち、「パジェット病」はわずか250例、0.3%に過ぎませんでした。筆者自身も年間延べ6,000人程度を外来で診察しているのですが、それでもパジェット病の方にはお目にかかったことがありません。

乳頭や乳輪の湿疹は多くの場合、下着との相性が悪いことなどに伴う皮膚炎で、軟膏を処方すれば速やかに改善します。ですから、しこりの時と同様、あまり心配はいりませんが、念のため医療機関を受診してください。

2-3.乳房の痛み

さて、心配な症状として、「乳房の痛み」を訴えられる方もいます。

結論から申し上げると、乳がんを専門とする医師の中で、乳房の痛みは乳がんと一般に関係がないと捉えられています。実際、乳房の痛みの有無で乳がんの頻度を比較したところ、差がなかったとする過去研究が報告されていますし、私の診療経験でも、乳房の痛み単独でいらした方で乳がんが見つかることはほとんどありません。

ただ、注意が必要なのが、乳房のしこりが急激に大きくなっているケースです。このような場合には乳房が急激に引きのばされて痛みを生じる可能性があります。筆者も同様の症例に遭遇し、肝を冷やしたことがあります。ですから乳房の痛みだけの場合でも、不安を感じられたら、医療機関を受診していただくのが良いと筆者は考えています。

なお、乳房の痛みの原因は、ホルモンバランスや神経に由来することが多いようです。ただし、乳がんでないのが明らかになった時点で、それ以上原因を追及することはないため、原因ははっきりしないままになりがちです。