進化を感じさせてくれた「楽天ファッション・ウィーク東京」

マリ・クレール編集長、田居克人が月に1回、読者にお届けするメッセージ。8月28日から9月2日まで開催された「楽天ファッション・ウィーク東京」では、今までとは違った光景が。

大きな可能性を感じさせる新人や、東京をさらに盛り上げようとする意思が感じられた。

9月から10月にかけては世界的にコレクションのシーズン。ニューヨークを手始めに、ロンドン、ミラノ、そしてパリと2024年春夏のプレタポルテのファッションウィークが続きます。

今年は世界に先駆け、 東京から2024年春夏のファッションウィークがスタートしました。正式には「Rakuten Fashion Week TOKYO」(主催:一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構=JFWO)と呼ばれ、主会場の渋谷ヒカリエ、表参道ヒルズを中心に、8月28日から9月2日まで開催されました。

開催期間中に発表されたブランドは、フィジカル発表が35ブランド、デジタルでの発表が15ブランド、合計50ブランドで、その中には海外ブランドも含まれています。

もともとは「東京コレクション」という名称で、東京のファッションの黎明期にあたる1970年代に始まったイベントです。松田光弘さんや金子功さんなどをはじめとする有名デザイナーを輩出し、またファッションが日本の文化、産業の柱になるのではないかという期待を持たせてくれました。

全てのコレクションを見る時間的な余裕はありませんが、できるだけ見るようにした今回。特に感じたのは3つのポイントです。

まず第1は非常にレベルが高いということ。20年ぐらい前は感じなかったのですが、その技術的な部分も表現方法も以前とは比べ物にならないほどレベルが上がっているということです。特に私が感じたブランドは「HARUNOBU MURATA」と「support surface」です。

「HARUNOBU MURATA」のコレクションは東京国立博物館「法隆寺宝物館」で発表されました。テーマは「親密な日常のポートレート」。写真家Slim Aaronsがとらえた魅力的な人達をインスピレーション源に、とても軽やかでエレガントなコレクションを発表しました。


「HARUNOBU MURATA」 ©Courtesy of brand

また「support surface」は弊社の前にある「Otemachi One」内にあるホールでコレクションショーを発表。布に向き合いながら機能性や着心地を追求したデザインは、大人の雰囲気を醸し出した上質で品の良いコレクションで、デザイナー・研壁宣男さんが脂の乗り切った時期に入っていると感じさせました。


「support surface」 ©JFWO

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海外からも注目される東京のファッション・ウィークへ

2番目のポイントは、外国人の観客がとても増えたことです。以前は、といっても10年以上前のことですが、海外からのジャーナリストやバイヤーに、コレクションを見に来日してもらうということがとても重要で、そのために有名ジャーナリストを招待までしていました。以前は東京のファッションウィークはパリが終わった後に予定が組まれていたため、海外のバイヤーも東京に来るまでにほとんど買い付けを終了していて、ほぼビジネスにならなかったというのが実情でした。

もちろん今回来日した外国人がすべてバイヤーだとは思いません。インスタグラマーやインフルエンサーがほとんどだと思いますが、そんな方々が東京のファッションウィークに興味を持ち、わざわざ取材申し込みをして見に来てくれるのは、とてもうれしいことだと思います。デザイナーにとっても大きな刺激になると思います。また彼らのファッションも、各自が思い思いにファッションを楽しんでいることが感じられ、会場の雰囲気をとてもエキサイティングで華やかなものにしていました。

第3のポイントは、JFWO主催のブランド支援プログラム「JFW NEXT BRAND AWARD2024」を「KANAKO SAKAI」が獲得したことです。このブランドのデザイナー・サカイカナコさんは、ニューヨークのパーソンズ美術学校で教授を務めていた、私の長年の友人の教え子だったのです。私もその友人とサカイさんとで食事をしたこともあり、とてもうれしく、受賞が決定した日にはニューヨークの友人に電話までしてしまいました。「KANAKO SAKAI」のコレクションはファッションウィークの初日に渋谷ヒカリエで発表されましたが「自由を纏う」というテーマのもと、ブランドの精神性、世界に対する姿勢を表現しました。


「KANAKO SAKAI」 ©KANAKOSAKAI

この賞はJFWOが掲げる「日本から世界に向けたデザイナーの創出」を目指し、これから世界で活躍できる可能性のある新しい才能を育成・支援していくものです。サカイさんが、この賞をきっかけにさらに大きく成長していくことを、心から祈りたいと思います。


「JFW NEXT BRAND AWARD 2024」授賞式でのサカイカナコさん(左) ©JFWO

久しぶりに多くのコレクションを見ることができた今回の東京のファッションウィーク。雑誌業界の人間からすると、まだまだ雑誌の取材が少ないと思います。これからの日本のファッション界を考えるうえで、ファッションメディアの東京でのファッションウィークへの注目度も、さらに上がってほしいと感じました。

2023年9月28日