【防災の専門家が解説】本当に必要なものを備えるためにやるべきこととは?

近年増加している自然災害。2024年は年始から大きな地震が発生し、その後も各地で自然災害が多発しています。そのため、改めて日頃から防災意識を高め、必要な防災グッズを準備することが重要視されています。今回は総合危機管理アドバイザーである、おりえさんに近年の自然災害の増加について、備えておきたい防災グッズや、なぜ日頃の備えが大切なのかを教えていただきました。

総合危機管理アドバイザー おりえさん

秋田県出身。総合防犯設備士・自然災害2級危機管理士・社会リスク2級危機管理士・防火管理者・防災管理者の資格を持つ総合危機管理アドバイザーとして活動中。
剛柔流空手の師範を父に持ち、自身も幼い頃から空手を嗜む。
現在は世界硬式空手道連盟所属。日本唯一の女性護身術師でもある。

近年の自然災害の増加について

――近年、自然災害が多い印象ですが、実際に増えていますか?

皆さんが体感している通り、自然災害は増えています。IPPC(Intergovernmental Panel on Climate Change)※1からも温暖化が進むことで気候変動が見られ、今後雨量が増えると発表されています。

気象庁がスーパーコンピュータで実施した将来予測でも、二酸化炭素などの温室効果ガスが高いレベルで排出され続けた場合、ほぼすべての地域や季節において1日の降水量が200ミリ以上にのぼる大雨や、1時間当たり50ミリ以上の短時間の強い雨が降る頻度が増加し、ともに全国平均では20世紀末の2倍以上になる※2という結果が出ています。

日本では、大雨や洪水、台風といった風水害、地震、火山の噴火などに気を付ける必要があります。日本は島国で土壌が脆弱な上に河川も多く、水害が起きやすい条件が揃った国です。実際に水害は増加傾向にあり、雨量の増加や台風の巨大化も懸念されています。

また、日本は4つのプレートの上に乗っている状態で、非常に地震が起きやすい環境です。世界で起きているM6以上の地震の内、20%が日本の地震。地震が起きない県とされていた石川県も年始に地震が発生し、今後もいつどこで地震や災害があるかわからない状況です。

東京都防災会議が公表した「東京都の新たな被害想定 首都直下地震等による東京の被害想定」によると、首都直下型地震は70~80%でM7程度、南海トラフ地震は70~80%でM8~9の可能性があるとされています。非常食に関しては、首都直下型地震は3日で3,400万食、南海トラフ地震は3日で3,200万食足りなくなると言われています。

災害時に「買おう」と思ってもその時には困難な状況になるため、私は皆さんに「事前に備えない理由がない」と伝えています。

※1 1988年、世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織
※2 参考:気象庁「特集 激甚化する豪雨災害から命と暮らしを守るために」​​

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「もしも」の時に備えておきたい防災グッズの基本Q&A

――水やトイレットペーパー、食料の備えなどはどのくらい必要ですか?

水は1日3L(1人)、トイレットペーパーは1週間で1ロール程度(1人)を目安に備えておきたいですね。トイレットペーパーやティッシュペーパーは食料のように腐るわけではないので、1ヵ月分など多めにストックしておくのも良いでしょう。

食料については最低3日分、できれば1週間分が必要と言われています。避難所では、おにぎりや菓子パンなどの炭水化物の物資を配ることが多いですが、これだけではタンパク質やビタミン、ミネラル、食物繊維などが不足します。食事が炭水化物中心になりやすいため、「避難所肥満」という言葉もあるくらい食事が偏ってしまうこともあります。そのため、食料を備える際は栄養バランスも考慮することが大切です。

――防災リュックはどこに置くのがおすすめですか?

防災リュックの置き場所は、内閣府も推奨している出入り口付近や物置、車などが良いです。災害時は、たとえ余裕があったとしても戻る時間よりも逃げることが大切になるので、すぐに手に取れる場所にリュックを置いてください。ただし、夏場は車内温度が上がるため、車に置く場合はリュックに入れるものを調整しましょう。

――「あると便利な防災グッズ」を教えてください。

<非常食>
ご自身が「食べたい」と思えるものが良いです。災害時はショックから食欲がなくなったり、非常食が味気ないと感じたりすることもあります。ご飯はもちろん、お菓子も長期保存可能な商品が販売されているので、災害時に食べて、元気になれるようなものを備えたいですね。

また、お米を備える際は無洗米もおすすめです。災害時はお米を研ぐほどのお水がないことも考えられます。

<スポーツドリンク・経口補水液の粉>
スポーツドリンクや経口補水液の粉があると、少し体調が悪い時に水に溶かして飲んだり、粉を舐めたりして脱水症状を防げます。水は避難所に届いたり、準備していることも多いので、粉さえあればこういった対応ができます。

<目薬>
被災地では、結膜炎にかかる人が多いです。これは土砂災害、地震による倒壊によって粉塵が起き、目に影響を及ぼすことが原因です。防災グッズとして、抗菌目薬を用意しておくと結膜炎を防げます。小分けになった使い捨て目薬などを用意しておくと衛生的ですよ。

<常備薬/風邪薬>
災害時、医療現場は逼迫している可能性があるため、少しの風邪などではなかなか見てもらえない場合があります。持病の薬はもちろん、いつも飲んでいる風邪薬や常備薬も備えておくのがおすすめです。いつも飲んでいる薬だと安心でき、自分で体調管理がしやすくなります。薬と併せて体温計なども備えておくと、日々の体調の変化などにも気づきやすいでしょう。

<メガネ>
視力が悪い人は、必ずメガネを備えてほしいです。災害時に目が見えないのは本当に不便。逃げる際も手間取りますし、見えないことで危険なものを踏んでしまうおそれもあります。防災用の鞄の中だけではなく、普段持っている鞄の中にも予備メガネを入れておくことをおすすめします。

被災地で粉塵がひどい場合は、コンタクトの使用が推奨されないこともあります。また、火山の噴火が発生した場合は火山灰が目に入るおそれがあり、その状態で目をこすると目を傷つけるため非常に危険です。

災害時はメガネで過ごすのがベスト。度の合わないメガネでは見づらかったり、見え方の問題で体調を崩したりする場合もあるため、ご自身の視力に合うものを備えておきたいですね。

<防犯グッズ>
災害時は犯罪が増えると言われています。いざという時のために、笛やライト、ブザーなどの防犯グッズを入れておくと安心です。

<生理用品・メイク落とし>
女性は、生理用品やメイク落としなどは必ず準備しておきたいですね。水や食料などと比較すると避難所でも後回しになりやすいアイテムなので、ご自身で備えておくことをおすすめします。

<ガムテープ・ペン>
防災リュックに余裕があれば、ガムテープとペンを備えておくのもおすすめです。メモ代わりにしたり、衝立などを立てる際に使用したりと何かと重宝します。

防災グッズに関しては、首相官邸の「災害の「備え」チェックリスト」を確認するのも良いと思います。今まで発生した災害からチェックリストを作っているため、参考になりますよ。

――防災リュックの中身のチェックは、どのくらいの頻度で行えば良いですか?

理想は3ヶ月に1度、防災グッズの中を確かめたいところ。難しければ衣替えのタイミングなどにチェックしましょう。冬場と夏場では必要なものが異なるため、季節に合わせてホッカイロを入れたり、冷感グッズを入れたりと中身を入れ替えると良いです。食料の賞味期限やライトが稼働するかなどもチェックしてくださいね。

また、これから防災リュックやグッズを準備する人は、防水・撥水機能も意識して選んでみてください。水害に限らず、地震の際も逃げる時に雨や雪が降っている可能性があるためです。災害時の被害の3分の2は火災と言われています。火事による被害が多いため、防炎機能は重宝します。