勤続35年、退職金2,500万円の会社員の悩み…退職金の受取方法“一括”と“分割”どちらがお得?【FPの回答】

退職金は多くの場合、退職時に一括で受け取ります。しかし、「確定給付企業年金(DB)」や「確定拠出年金(DC)」など、分割で受け取ることも可能です。では、退職金はどのように受け取るのがお得なのでしょうか。ファイナンシャルプランナー(FP)の山中伸枝氏が、具体的な事例を交えて詳しく解説します。

勤続年数35年、退職金2,500万円…退職所得控除はいくら?

「退職金」というと、“一括で大金を渡されるイメージ”があるかも知れません。ただ最近は、この「退職一時金」のタイプのほか、年金形式で受け取るタイプもあります。受取方を選択できる場合、方法により税金のかかり方が異なるため、事前の確認が必須です。

退職金は会社が設けている制度ですから、すべての人に該当するように伝えることは難しいのですが、今回は税金の基本的な話から、比較的当てはまる人が多い事例を取り上げて解説していきます。

「退職一時金」にかかる税金の仕組み

まずは「退職一時金」にかかる税金の仕組みをみていきましょう。仮に、60歳定年で勤続35年、2,500万円の退職金を受け取る場合を想定します。2,500万円というと、大卒で就職し、大企業に勤めていた人の平均額です。

退職金というのは“長期間のお勤めご苦労様”という意味合いもあるので、特に所得税が優遇されるように設計されています。

この優遇の度合いは勤続年数によって変わり、計算のうえ「退職所得控除」(=税金のかからない部分)が差し引かれます。当然ながら、この「控除部分」が大きければ支払うべき税金が少なくなるということです。

退職所得控除は、勤続年数20年までは1年あたり40万円、20年を超えた期間については、年間70万円で計算されます。

つまり、

■勤続10年……40万円×10年=400万円
■勤続20年……40万円×20年=800万円
■勤続30年……40万円×20年+70万円×10年=1,500万円

となります。

また、1年未満の勤続年数は1年とカウントされます。したがって、勤続年数19年11ヵ月の場合、勤続年数は20年→退職所得控除は800万円、20年1ヵ月の場合、勤続年数21年→退職所得控除は870万円となります。

今回の例は勤続35年ですから、退職所得控除は下記のようになります。

■勤続35年……40万円×20年+70万円×15年=1,850万円

2,500万円の退職金から上記の控除額を差し引くと、650万円が残ります。

前述したとおり、退職金は特に税制が優遇されているため、税金を計算する際にはこの残った650万円がさらに2分の1されます。つまり、今回の例では325万円が課税対象ということです。

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退職金に課されている「分離課税」とは? 

退職金は課税の段階でも「分離課税」という特別ルールがあります。これは、退職金以外に所得がある場合でも、合算せずに税金を計算するというものです。

たとえば、年の途中で定年を迎える場合、それまでの給与があります。その給与収入が数百万円あり合算されてしまうと、そちらの税率に引っ張られてしまい結果的に税金の支払額が多くなってしまいます。

しかし、退職所得は「分離課税」といい単独で税金計算されるため、この場合の税金は325万円×10%-9万7,500円=22万7,500円※となります。住民税は10%ですから32万5,000円、納税額は合計で55万2,500円です。

※国税庁「所得税速算表」より

退職金は、大企業に勤める一般職の場合平均で1,500万円、中小企業に勤める大卒で平均1,100万円というデータもありますが、そのようなケースでは退職金が退職所得控除内となり、税金を負担することなく退職金を全額受け取れるということになります。

いずれにせよ、退職金が課税対象となるのかならないのかは個々の状況によるので、老後資金計画を立てる際には早めにご自身の退職金見込み額を確認するとよいでしょう。

なお、勤続年数20年超の退職所得控除の額が、それ以下の期間と比べてかなり優遇されていることから「この制度が人材の流動性を低くしているのではないか」という指摘があり、今後この計算式の見直しが検討されています。結論はまだ出ていないものの、知っておきたい情報といえます。