「転職時」の“健康診断”、費用は社員側の「自己負担」 法律的には“グレーゾーン”?

春は転職のシーズンだ。とくに4月は新卒と同時期の入社となり、研修などの受け入れ体制が整っており新しい会社にも馴染みやすくなることから、多くの会社員は4月入社を目指して転職活動を行う。

転職時には、健康診断を受けて結果を提出することが必要になる。

この時、転職先の会社が健康診断の費用を負担せず、自己負担となることに戸惑った人もいるだろう。

「雇い入れ時健康診断」は社員の自己負担となることが多い

会社には、従業員に一年ごとの「定期健康診断」を受けさせることが義務付けられている。これに違反した場合、会社が50万円以下の罰金に処せられる可能性もある(労働安全衛生法66条、102条1号)。

ほとんどの会社では、定期健康診断の費用は会社側が負担している。しかし、転職時に行われる「雇い入れ時健康診断」は、従業員側の負担となることが多い。

X(旧Twitter)では、「入社前の健康診断の費用が自己負担だった」と嘆く声や「健康診断を自己負担にさせるような転職先はブラック企業ではないか」という不安が多く投稿されている。

雇い入れ時であっても、会社が健康診断の費用を負担しないのは違法なのではないか?

労働問題に詳しい伊﨑竜也弁護士によると、法律的には「グレーゾーン」という。

会社が費用を負担しないのは「違法」ではない

そもそも、定期か雇い入れ時かに関わらず、健康診断の費用を従業員に負担させることについては、法律上、直接的な罰則は存在しない。

ただし、厚生労働省は「健康診断費用は事業者が負担すべき」と通達を出している。

また、もし自己負担を嫌がった従業員が健康診断を受けなかった場合には、会社側が処罰を受ける可能性がある。

「そのため、労働安全衛生法は、会社が健康診断の費用を負担することを当然の前提としていると考えられます。しかし、法律上の罰則は規定されていないので、雇い入れ時健康診断の費用を従業員側の自己負担にすることも“グレーゾーン”なのです」(伊﨑弁護士)

本来なら会社側が負担すべき?

会社の側としては、新規採用に関わる費用を少しでも節約するため、雇い入れ時健康診断の費用を従業員に自己負担させているのだろう。

また、従業員の側としては、転職した直後から会社側とトラブルを起こすのを避けるために、不満をのみ込んで費用を払うこともあるだろう。

「しかし、労働安全衛生法の前提や厚生労働省の通達をふまえれば、健康診断の費用は会社側が負担すべきと考えます」と伊﨑弁護士は語る。

「健康診断は労働者のためのものではなく、会社の義務として定められているものです。その費用が負担できないのであれば、従業員を雇い入れるべきではありません。

また、従業員が会社から健康診断費用を自己負担するよう求められた場合には、受診を拒否しても問題ありません。

私としては、健康診断費用の自己負担を求めるような遵法精神の乏しい会社であれば、その他の労働問題(残業代未払いや不当解雇など)が発生する危険性もあるため、転職も考えた方がいいと思います。

とはいえ、これから働く会社とのトラブルは避けたいという方が多いでしょうし、転職も簡単なことではないでしょう。

したがって、健康診断費用の自己負担を求めた場合の罰則を規定するなど、立法による解決が望まれます」(伊﨑弁護士)