つるバラは長くしなやかな枝を壁やアーチ、フェンスなどの構造物に留めつけ、空間を華やかに演出することのできる優れた花材です。花の色や大きさ、枝振り、枝の長さなどは品種ごとに異なるため、植えたい場所の広さなどを考慮して適したものを選ぶ必要があります。ここでは長年つるバラを咲かせている面谷ひとみさんのお気に入りのつるバラ7品種と選び方のポイントをご紹介します。

つるバラとは?


柱に誘引したピンクのバラは、花にも葉にもハーブのような香りがある‘コンスタンス・スプライ’。

バラには自立して育つ「木立ち性のバラ(ブッシュ・ローズ)」と、自立せずに長く伸びたつるをアーチなどに留めつけて育てる「つるバラ(クライミング・ローズ)」、前者二つの中間のような性質を持つ「半つるバラ(シュラブ・ローズ)」の3タイプの樹形があります。


樹高が6m以上になる‘ポールズ・ヒマラヤン・ムスク’。

つるバラの枝は1年で2m以上、品種によっては7mくらい伸びるものもあります。この長く伸びた枝をアーチやフェンスなどに留めつけることを「誘引(ゆういん)」といいますが、品種によって枝の太さややわらかさ、トゲの多さなどが異なるので、仕立て方や空間の広さ、誘引時の労力も考慮して選ぶことが大事です。

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私のつるバラ選びの5ポイント

上記の通り、品種によって特性の異なるつるバラですが、私が気に入っているつるバラには、以下の5つのポイントが共通点として挙げられます。


トゲがほとんどなく、枝が細くしなやかで誘引しやすい‘メアリー・ディレイニー’。

① 枝が細めでしなやか/誘引や剪定(枝を切ること)がしやすく、花や葉がなく枝だけの冬期も繊細な雰囲気です。
② トゲが少なめ/誘引しやすく、ケガの心配が少ないです。
③ 小輪〜中輪/他のつるバラや草花と組み合わせたときに馴染みやすいです。
④ 消毒なしでOK/病害虫の被害が受けにくく、丈夫な品種を選んでいるので、バラには基本的に消毒をしていません。
⑤ 香りがある/バラは品種ごとにさまざまな香りがあり、最盛期にはあたりに甘い香りが漂います。品種によっては香りがまったくないものもありますが、できるだけよく香るものを選ぶようにしています。

これらのポイントに加え、名前が素敵であることも選ぶときのポイントにしています。「このバラは何?」と聞かれたときに、素敵な名前やエピソードがあると、お話しするのも楽しいものです。そんな私のお気に入りのつるバラたちをご紹介します。

アーチ状になり誘引しやすい「クラウン・プリンセス・マルガリータ」

ヴィクトリア女王の孫娘で、一流の造園家でもあったスウェーデン皇太子妃の名前を冠したバラです。アプリコット色の中輪の花を房になって咲かせます。咲き進むにつれて外側の花弁が反り返ってクラシカルな花形になり、淡くなっていく変化も美しい花です。花は果物のような爽やかさを感じる強香。淡い紫色のガーデンシェッドの壁に、白花の‘スノーグース’とともに誘引しています。枝はしなやかで自然にアーチ状になり、トゲも少なめで誘引もしやすいです。樹高は3m前後。5月が一番花が多く咲きますが、その後も返り咲きます。

トゲがほぼなし!「メアリー・ディレイニー」

‘メアリー・ディレイニー’は2022年に「モーティマー・サックラー」から改名したバラで、品種自体は古くからあります。ほんのり淡いピンク色で、ゆるっと開く半八重咲きの花がナチュラルでリラックスした雰囲気を庭に醸し出してくれます。このバラも中輪でとても爽やかないい香りがします。病気に強く非常に丈夫ですが、一番のおすすめポイントはトゲがほとんどないこと。誘引時のストレスがありませんし、人が通る場所でも安心して育てることができます。樹高は3m前後で、四季咲き。

つるバラの使い方ワンポイント①

‘メアリー・ディレイニー’は低い位置からも花が咲いてくれるので、草花との共演も楽しめます。はかなげな淡いピンクの花と相性がよいのは、ブルーや白の花。私のお気に入りは水色の花をふわふわと咲かせるギリア・カピタータやニゲラです。一年草ですが、こぼれ種から毎年生えて育ちます。


左/ギリア・カピタータ。右/水色のニゲラ。

遅咲きでバラのシーズンを伸ばしてくれる「デビュタント」

社交界に初デビューする少女を意味する「デビュタント」。そんな可憐なイメージで咲く小輪のつるバラです。ほかのバラに遅れて、鳥取県米子市では5月20日過ぎから見頃を迎え、バラのシーズンを引き伸ばしてくれる貴重なバラです。半八重咲きでピンクの花色は、咲き進むにつれ淡く変化します。華奢な花枝がタランとこぼれるように咲き、高いところに誘引すると独特の風情が楽しめます。生育旺盛で6mくらい伸びる大型のつるバラで、壁にワイヤーを張ってそこに枝を誘引しています。花は微香で5月の一季咲き。同様に遅咲きで小輪、アプリコット色の‘ギスレーヌ・ドゥ・フェリゴンド’と一緒に咲かせています。


華奢な花枝を垂らして咲く‘デビュタント’。

朝夕の光に輝く「ティージング・ジョージア」

深みのあるイエローの優雅な花は、朝夕の光に照らし出されて輝くように咲き、甘い香りをあたりに漂わせます。クリニックの玄関の壁からアプローチの屋根の内側へ誘引していますが、トゲは普通にあるほうなので、人が手を触れない場所に植えています。患者さんからは「このバラを見て気持ちが明るくなった」「香りに癒やされる」など、とても人気のあるバラです。そんな言葉から、イエローのバラはパッと明るく朗らかな印象なので、玄関など人をお迎えする場所には合っているのかなと思います。樹高は2.5〜3mほどで、非常に丈夫。病気や害虫に悩まされることなく、もう何年もこの場所で美しい花を咲かせています。

つるバラの使い方ワンポイント②

壁に誘引したつるバラは、他の花の背景としても活躍します。‘ティージング・ジョージア’を誘引した壁の前の鉢には、いつもブルー系の花を寄せ植えにしています。黄色とブルーは補色関係にあり、お互いの色を引き立て合い、美しい風景を作ってくれます。


サルビアやフロックス、ブラキカムなどブルー系の花を寄せ植えした大鉢。

ナチュラルな咲き姿が魅力の「シャンペトル」

シャンペトルとはフランス語で「田園風」という意味で、その素敵な名前にひかれて買ったバラです。その名の通り、花と葉のバランスがちょうどよく、とてもナチュラルな咲き姿なのが気に入っています。バラの中には花つきがものすごくよく、空間をびっしり花で埋め尽くすように咲くタイプもあるのですが、この庭では他の草花との調和を重視してバラを選んでいるため、このくらいのフワッとした咲き具合がちょうどいいのです。このバラもトゲがほとんどなく、病気にもならず、とても丈夫。樹高は120〜150cmと、しなやかな枝は伸びすぎないので誘引の手間もほとんどかからず、とても使い勝手のよいバラです。


‘シャンペトル’の下には野生的な雰囲気で咲くセンティッド・ゼラニウムを。

四季咲きで冬のローズヒップも可愛い「スノーグース」


左/春の‘スノーグース’。右/冬の赤い実とアプリコットがかる花。

小輪の白い花をたわわに咲かせる様子は、雪におおわれたようです。咲き始めはほんのりとピンクがかり、次第に真っ白になっていきます。四季咲きで12月に入ると花より赤い実のローズヒップが実り、これも可愛いのです。チラチラと咲く冬の花は春とは異なり花数が少ないものの、アプリコットがかっています。樹高は2〜3mほどでトゲが少なく、しなやかな枝は誘引もしやすいです。


左端の白いバラが‘スノーグース’。

白いふわふわとした花の雰囲気に似合うように、株元には同じ白花でふわふわと咲く宿根草のセントランサス‘スノークラウド’を植栽して白いコーナーにしています。


セントランサス‘スノークラウド’。宿根草で何年も同じ場所で花を咲かせますが、こぼれ種であちこちに増えていきます。

シックな赤と濃厚な香りの「スヴニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン」

濃厚な赤色の中輪のつるバラで、バラらしいダマスク香が濃厚に香ります。赤色にもさまざまニュアンスがありますが、このバラは黒みを帯びてとってもシックな雰囲気。つるはわりとしっかり真っ直ぐ伸びるほうですが、トゲがほとんどないので扱いやすいです。本来の樹勢は普通なのですが、この庭では他のバラとコラボレーションさせることが多く、生育旺盛な‘メアリー・ディレイニー’のそばに植えていたら、4〜5年後に樹勢が負けて花付きが悪くなってきてしまいました(写真は3年目)。単体で植えるか、他のバラと組み合わせるときは、お相手選びを慎重にすることをおすすめします。


‘スヴニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン’と‘メアリー・ディレイニー’との競演。3年目くらいまでは見事でしたが、その後、‘スヴニール・ドゥ・ドクトル・ジャメイン’の樹勢が衰えてきました。