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これまでの働き方はもうできない?労働基準法改正がもたらす医療・福祉分野への影響

これまでの働き方はもうできない?労働基準法改正がもたらす医療・福祉分野への影響

医学的にも休みの「質」が欠かせない理由

今回の改正案で休む「質」の確保へとシフトしている背景と目的を、立正大学で労働法を研究する高橋教授は次のように話します。

立正大学法学部 高橋賢司教授_プロフィール画像
立正大学法学部 高橋賢司教授:ドイツ・テュービンゲン大学法学博士。専門は労働法。近年は医学や睡眠科学の専門家と連携し、エビデンスに基づいた労働時間法制の研究に従事。

高橋教授:週55時間以上などの長時間労働が続くと、心疾患や脳血管疾患、うつ病になるリスクが高まることは研究でも明らかになっています。これまでこうした研究結果が労災認定には活用されてきましたが、労働時間規制には活かされてきませんでした。

過去に起きた過労死裁判の分析からも、週55時間を超える長時間労働が続くと、心疾患や脳血管疾患による過労死のリスクが高まることがわかっています。またこうしたリスクは、終業から始業までの休息時間が短い場合にも高まることが明らかになっています。

終業から始業まで11時間を設けるなどの勤務間インターバルは、労働者の心身を守るうえで不可欠です。

EUでは、勤務時間外にオンラインなどでつながることによる健康リスクが報告されており、すでに法律が整備されています。日本でもこうした流れを受け、休息の質を担保するための規制を求める声が上がっていました。

ただ、現行の議論には課題もあると指摘します。

高橋教授:睡眠科学者の見解では、11時間のインターバルでも足りないと言われています。通勤時間や食事、家事の時間も考えると、7〜8時間の睡眠を確保するには11時間以上が必要と言えます。努力義務から義務化への一歩は前進ですが、日本の通勤事情なども考慮した設計が必要です。

現場で「休ませる」ための仕組みづくりを

法律が変わっても、現場で運用できなければ意味がありません。「つながらない権利」など現代の労働時間管理を研究する青山学院大学の細川教授は、医療・福祉の労働時間について、次のように指摘します。

青山学院大学法学部長・法学研究科長 細川良教授プロフィール画像
青山学院大学法学部長・法学研究科長 細川良教授:早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程博士研究指導終了退学。専門は労働法。「つながらない権利」やテレワークなど、現代的な労働時間管理のあり方を精力的に研究。

細川教授:医療や福祉の現場には、労働時間のグレー問題があります。例えば、オンコールで待機している時間や、新人看護師が患者の疾患について勉強している時間、若手医師が手技を練習している時間などです。

これらは、実際に患者や利用者と接する時間ではないため、実労働時間と見なされないケースもあります。ですが、業務命令によって待機し、呼び出される可能性が十分ある、または業務上必要なためおこなっているのであれば労働時間に該当し得るというのが私の見解です。

もしこうした時間が適切に管理されなければ、過労死にもつながる可能性があります。まずはどの部署でどのような業務があるか洗い出し、実態把握に努めることが大切です。

そのうえで、どのような形であれば現場は回るかを検討していくのが現実的だと考えます。その際、好事例を収集して参考にすることも有効です。

さらに、医療・福祉従事者の「善意」や「個人の頑張り」に頼らない仕組み化が大切だと話します。

細川教授:今回の改正案の導入で重要なのは「公平性」と「負担の分散」です。医療・福祉に携わる人は義務感が強い人が多く、なかには無理をしてしまう人もいます。そういう人は自ら休もうとしません。

しかし、その結果として心身の健康を損ねてしまっては、本人にとっても、事業所にとっても望ましい状態とはいえません。だからこそシステム化して、無理やりにでも休んでもらう仕組みを作ることが大切です。

例えば、3人のオンコール担当者を設ける場合、ローテーションで「今夜は確実に休める番」をつくるだけで、心理的な負担は大きく変わります。

いつ呼び出されるかわからない状態にあると、心理的な緊張から休息の質が低下することは、医学的にも解明されています。全員が常に待機している状態では、結果として全員の休息の質が下がってしまいます。だからこそ、優先順位付けなどによって「確実に休める時間」を設け、良質な休息の機会を少しでも確保する工夫が重要です。

もし、人手不足で一つの事業所で回しきれない場合は、地域内の異なる法人と連携するなどの体制づくりも必要です。同業者同士で協力し合うことが、結果として地域医療・福祉の維持につながります。

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