医療・福祉にこそ関係する制度改正
現場ではこの議論をどう受け止めているのでしょうか。医療機関を支援する吉澤社労士事務所代表の吉澤さんは、次のように話します。

吉澤さん:労働法改正の議論について、現場では知らない人が多いと思います。今の現場は診療報酬改定への対応で手いっぱいではないでしょうか。本格的に導入が決まっても「医療・福祉は例外で関係ない」と思っている人が多いと想像します。働き方改革のときも直前になってようやく「これは本気だ」となって、バタバタと対応した病院がほとんどでした。
改正法の実現に際し、以下の懸念点を示します。
吉澤さん:「つながらない権利」に関して医療機関では、夜間の呼び出しを完全になくすことは極めて困難です。看護師や当直医が夜間に主治医と連絡を取るケースは頻繁にあり、患者へ最適な処置をおこなうために連絡せざるを得ないケースは少なくありません。現場にしてみたら、「つながらない体制で患者さんを救えるのか」という疑問が湧くと思います。
一般企業の場合は終業後に連絡を取らないというルールを守ることができても、医療・福祉ではある程度独自のルールが必要ではないでしょうか。
また、「勤務間インターバル」についても、このように話します。
吉澤さん:2024年に医師の働き方改革が導入された際も、一部の医療機関には最低9時間以上の勤務間インターバルが努力義務となりました。ですが、日本企業全体に目を向けると、導入割合*は低い状況です。もしオンコールで呼び出されてそこから勤務間インターバルがリセットされると、翌日のシフトに穴が空いてしまうなどの懸念があります。
*厚生労働省|令和6年就労条件総合調査の概況によると、勤務間インターバル制度を導入している企業の割合は5.7%
一方で、今回の改正を持続可能な組織づくりを見据えた好機と捉えてほしいと話します。
吉澤さん:法改正の目的は労働者の健康を守ることです。これまで、医療・福祉では従事者を人的資源と捉え、辞めたらまた採用を繰り返す、“つぎはぎだらけの組織運営”が一般的でした。ですが、今後は人が資産という発想の転換が必要になってきます。
そのためには、どのようなルールが組織にとって最適か労働者と管理者が一緒に考えることが大切です。誰か一人に負担がいかないよう、人を大切に育て、中長期的に組織の価値を上げていく機会と捉えてほしいです。
休める職場が組織を守る
約40年ぶりとなる今回の改正を、医療・福祉の現場はどう受け止め、活かすべきなのでしょうか。3人に聞きました。
高橋教授:「勤務間インターバル」や「つながらない権利」の導入は持続可能ではないという反発があるかもしれません。しかし、私はその逆が真理だと考えています。労働基準法の前身である「工場法」ができた際も、労働時間を抑制することが経済の発展につながると考えられてきました。
人口減少と労働時間の増加が一緒に議論されるのは、医療・福祉ならではです。他産業と同様にまずはこれらを分けて考え、制度を味方につけ、労働時間に配慮して、誰もが健やかにケアを提供できる職場を築くことが医療・福祉を守る道となります。
細川教授:休みが量・質共に確保できることは、人材の定着にもつながり、結果的に人材不足対策にもなり得ます。こうした悩みを抱えている事業所にとっても、持続可能な組織になるための投資と考えて、前向きに取り組んでいただきたいなと思います。
吉澤さん:労働管理や休息ルールが整備されれば、採用の面ではプラスになる可能性があります。医療・福祉は人が命です。人の健康や生活を支える仕事を担う人がボロボロになっていたら、人は集まりません。明るい労働環境・労働文化の構築を期待しています。
参考
- 厚生労働省|労働条件分科会(第193回)参考資料
- 厚生労働省|労働基準関係法制研究会報告書

